現場発の改革を目指してみるべき

 下図のとおり、思考して解決策を考える際の起点は、常に具体的事象の観察です。

 質問者は、現場発の改革が実行されないことを指摘していますが、もしかするとその原因は経営陣が保守的な「昭和頭」だからではなく、経営陣が現場の具体的事象を把握していないからかもしれません。

 人間は一度経験したことは全て分かっていると錯覚しがちです。支店業務を経験したことがある経営陣は、今でも自分は支店業務のエキスパートだと思っている可能性は否めません。

 40代の部長が「俺が新卒のときは……」というアドバイスを新卒にするのは、新卒だった日々を昨日のことのように感じているからです。

 一方で40代の部長になったことがない新卒からすると、今を知らない遥か年上の親世代のおじさん・おばさんからお小言を言われているように感じます。

 だからと言って、何でもかんでも現場発であればよいというものでもありません。現場主義を標榜して、現場のあら捜しをして現場を混乱させる経営者がよい例です。

 現場には改革のヒントがありますが、それは本質的な課題ではありません。

 現場の課題は無数に出てくるかも知れませんが、会社が解決すべき本質的な課題は実は数えるほどだったりします

 質問者が現場発の改革を提案するのではれば、本質が抽出できているかをきちんと見極めましょう。そのためには、現場に点在する具体的な問題点を並べ、一度視点を上げて全体を観察し、問題を抽象化してみましょう

 上司や本部の人間だけでなく、他部署の人間を含めて色々な人からフィードバックをもらうことで、さらに本質的課題が表面化するはずです。そうした手順を踏むことで、経営陣含め誰もが納得し、全社一丸となって推し進められる現場発の改革が実現する日も遠くないでしょう。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。