実力以上の結果を出し、人より抜きん出た存在になるには、努力と能力だけでは足りない。周囲の人の認識を自分の味方にし、だれから見ても魅力的な人物になる力「EDGE」(エッジ)を手にすることで、思いどおりの人生を歩むことができる。全米が大注目するハーバードビジネススクール教授、待望の書『ハーバードの人の心をつかむ力』から特別に一部を公開する。
「どう見られているか」を理解する
ドーン・フィッツパトリックが当時のアメリカン証券取引所でキャリアを始めたのは、22歳のときだった。証券取引所のトレーダーたちは、彼女がどれだけもつか、賭けをした。一方、彼女はといえばそれは彼ら自身がどれだけもつかという不安のあらわれだと解釈した。
おまえなんか信頼してもらえるわけがないと言われたときには、彼ら自身が信頼してもらえるかどうか不安なのだと察した。おまえにリスクを冒せるのかと尋ねられれば、彼らがリスクを冒したくないのだと看破した。
そこで、彼女は自分が戦う独自の競技場を定め、自分なりの基準を設けた。そして同僚の男性たちが設けた基準に自分をあわせるのをやめ、指図に従うのもやめた。
スイスに本拠を構える世界有数の金融持株会社UBSで仕事を始めると、彼女はデスクの下にクリスチャン ルブタンのハイヒールを置いたうえで、よく裸足で職場を歩きまわり、自信のほどを示した―自信にあふれる姿とはどんなものかという他人の考えなどおかまいなしに。
きみにはタフな決断ができるのか、リスクの高い投資に踏み切るだけの判断力があるのかと尋ねられると、彼女は男たちと一緒の競技場で戦うのを拒否した。権力、利権、出世を争う「男性ホルモンの戦い」からは距離を置くことにしたのである。その代わり、リスクを冒す際には謙虚になる必要があり、すばやく損切りできるだけの力を身につけなければならないという立場をとった。
「女性のほうが……投資の決断を下す際には謙虚になれます……損切りに関しては大半の男性より効率よく判断できるはずですと、訴えたの」と、彼女は語った。こうして、彼女は周囲の人たちを自分が望む方向に誘導し、自分の立ち位置を知らしめたのだ。
「そりゃ、身長が190センチくらいある金髪の元アメフト選手ならよかったのにと思うことも、たまにはある。でも、女性であるからこそ有利だと思うことのほうが多いから、男ならよかったのにとは思わないわね」と、フィッツパトリックは語った。
「それはね、自分が優位に立てるよう、私のほうから相手に働きかけてきたからよ」と、彼女は繰り返した。いまや彼女はウォール街で巨大な権力をもつ女性であり、ソロス・ファンド・マネジメントの最高投資責任者として260億ドル規模のファンドを運営している。
私自身の研究、そしてこの分野の多くの専門家の研究から判明したのは、相手からどう見られているかをおもに2つの面で理解しなければならないことだ。
まず、(1)相手の権力と地位が自分とどのくらい違うか、そして(2)相互依存は協力的なものか、あるいは競争的なものか、だ。
(1)の権力と地位の差は、すんなりと説明できる。これは単に、自分と比べて相手が社会階層のどのあたりにいるかを相手が判断することを指す。これは善悪で判断するような行為ではない。社会生活を送るうえで基本となる要素を判断するだけのことで、あくまでも無意識におこなっていて、人間関係の力関係を調整するうえで役に立つ。
だが、人と人との、あるいは組織と組織との権力の差が大きくなればなるほど、あなたと相手の相互依存は協力的なものか、あるいは競争的なものかを、よく把握しなければならなくなる。
この場合、相手のニーズをしっかりと予想できれば、あなたのニーズを相手の目標と一致させられる。そうすれば、受け身にならずにみずから行動を起こし、自分が相手を豊かにできること、価値をもたらせることを示し、こちらが望む方向に誘導できるのだ。
たとえ権力の差がまったくない場合でも、協力的、あるいは競争的な力関係は発生する。
「協同的相互依存」と「競争的相互依存」とは、相手を自分と協力する人と考えるか、競争する人と考えるかの評価を指す。この決定もまた、力関係に影響を及ぼす。
たとえば、あなたの会社に就職を希望する応募者と面接をしているところを想像してもらいたい。あなたはその人物を「これから協力していく相手」と見なすだろうか? それとも「利用して利益をしぼりだす相手」と見なすだろうか? それとも、これから同じ職場で「出世争いをする競争相手」と見なすだろうか?
協力していく相手と見なすのであれば、あなたは応募者のいいところを見ようとする。利用する相手、または競争相手と見なすのであれば、あなたは差別しようとするかもしれない。
もっとわかりやすい言葉で表現しよう。天性の才に恵まれたピアニストのムン・ジヨンは「私たちが調和していながらも、明確な違いがあるとき、魔法が生じるのです」と語っている。一緒に協力してはいるが、互いが同じではないのだ。
こうした判断は、あなたがこれから会話をどのように誘導するかを左右する。ドーン・フィッツパトリックが同僚から慕われるようになったのは、権力や地位の差があっても、自分が同等に扱われるように仕向けることができたからだ(少なくとも、権力や地位の差など大したことではないと思わせることができた)。
その一方で、彼女は協力的な相互依存ができる人物だと思われるように努力した。同僚たちが自分のことを、あいつは女だから自分たちのライバルにはならないし、たとえ自信をもってリスクを冒すとしても、おれたちとは次元の違う話だと考えていることがわかっていたからだ。そこで彼女は工夫を重ね、男性たちの認識を別の方向へと巧妙に誘導したのである。
(本原稿は『ハーバードの人の心をつかむ力』〔ローラ・ファン著、栗木さつき訳〕から抜粋、編集したものです)