英国式システムを取り入れた場合の日本の皇室とは
そこで、英国式の王位継承を一部応用することを考えたい。それは、男系男子継承の伝統を前提にしながら、皇位継承権者の範囲を大きく広げることである。
実際に皇族の血を引く男系男子が何人いるのか、できる限り歴史をさかのぼって調査してみることは意味がある。実際、桓武平氏、清和源氏、足利氏など、天皇家を起源として血統が広がり、系図も比較的明確に残っている武家や貴族の末裔(まつえい)は全国に存在するだろう。
その上で、皇統の男系男子を「皇位継承の権利を持つ男子」として認定して本人に伝える。宮内庁がそれを記録しておくが、その記録は個人情報に配慮して、原則的には非公開とする。
「皇位継承の権利を持つ男子」には、公的な支援はなく、新たな宮家の創設などは行われない。あくまで、権利を持つ「個人」が認定されるだけにとどめることとする。
ただし、現在の宮家が断絶の危機に陥ったり、公務を行う皇族数が不足したりする場合、この「皇位継承の権利を持つ男子」から、皇族側と本人の合意で、養子縁組が結ばれることとする。女性皇族との結婚を前提とした「見合い」の相手ともなりえるだろう。
皇位継承の権利を持つ人を「個人」として認定するだけならば、「門地による差別」という憲法上の疑義を乗り越えられるのではないか。例えば「徳川家」や「細川家」など名門とされる家柄・血統が特権を受けることなく存在しているからだ。養子縁組や婿入り自体も、国民の自由意思に基づくものならば問題はない。
「旧皇族の男系男子」の数が増えることで、たとえ人権の制限がありえる環境でも、皇室の危機を救う覚悟を持つ人が出現する可能性が高まる。皇統消滅のリスクが減る上に、女性皇族の婚姻を巡る思惑が入り込む余地も減じることもできるだろう。
これまで私は、保守派の「日本の伝統」とされるものに固執する主張は、日本を衰退させる一方ではないかと指摘してきた(本連載第144回)。皇位継承のあり方の議論でも、伝統を重んじる保守派の意見が強すぎては、議論を進めることができず、本質的な問題の解決は先送りされてしまう。
「皇室」「宮家」という「家」を重んじることなど、伝統は大事だ。しかし、「個人」に皇位継承の権利を与えるという伝統から離れた新たな発想を取り入れることも、将来の持続可能な制度を作るためには重要なのではないかと考える。
<参考資料>
●竹田恒泰『語られなかった皇族たちの真実 若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」』小学館文庫