テレワークを機に、東京から鶴居村へ移住し、起業

 聞けば、板さんには、会社が全面テレワークになったことを機に東京から鶴居村へ移住し、リモート勤務を経て起業したご子息がいるという。

 板宏哉さんご夫婦は、リーズナブルな古民家を買ってリフォームとDIYの真っ最中だった。筆者は偶然にも、水道からお湯が出るようになるという“歴史的瞬間”に立ち会うことができた。

板宏哉さん Photo by Mayumi Sakai2021年2月に「鶴居おもしろワークス」を起業した板宏哉さん。Webサイト制作からITコンサル、サウナプロデュースまで幅広く手掛けている Photo by Mayumi Sakai

 鶴居村では、2010年に光ケーブルが配備され、移住者がスムーズにインターネットを使えるよう整備されている。また、田舎暮らしに憧れているという人に向け、インターネット環境が完備された移住体験住宅や、空き家・空き地情報の紹介もしている。実際、移住者は増えており、2019年は110人(うち道外からの移住は27人。広い北海道は道内の引っ越しも移住者と定義)に上った。

 2008年からは、鶴居村での新規開業に上限500万円まで支援する事業をスタートした。今では上限850万円となっている。鶴居村役場によれば、2020年までの5年で5件の新規開業支援実績があるという。板さんも「新規事業を展開する際に利用してみたい」と語ってくれた。

 日本総合研究所のレポートによれば、近年、地方移住への関心は高まっているものの、あくまで願望にすぎず、テレワークの普及が地方移住者を増やしているという実態もない。しかし、自治体の積極的な受け入れ体制は、「ネット環境があればどこでも働ける」と感じ始めた人たちの後押しになるだろう。すぐさま移住して「定住人口」とはならなくても、ワーケーションをきっかけに「交流人口」や、地域と多様に関わる「関係人口」を増やすことはできる。変化を生み出すには、地域外から来た人たちの気づきやアイデアを、その人たちとのコラボレーションによって地域の事業に生かしていく、という視点も重要だ。

 また、地方出身者の中には「地元に帰りたいのに仕事がない」というジレンマを抱えている人も少なくない。しかし、テレワークができるなら、すぐに地元で仕事が見つからなくても身一つで帰れるかもしれない。しばらくして地元企業に転職する人もいるだろうし、地元で副業を始める人、板さんのように起業する人も出てくるのではないだろうか。