実力以上の結果を出し、人より抜きん出た存在になるには、努力と能力だけでは足りない。周囲の人の認識を自分の味方にし、だれから見ても魅力的な人物になる力「EDGE」(エッジ)を手にすることで、思いどおりの人生を歩むことができる。全米が大注目するハーバードビジネススクール教授、待望の書『ハーバードの人の心をつかむ力』から特別に一部を公開する。
自分のストーリーを伝えるメリット
これまで歩んできた道のり、これから歩んでいく道のりに、なぜ重い意味があるのだろう?
1つには、自分の道のりを明確に伝えられれば、あなたという人間を首尾一貫した方法で有意義に理解してもらえるからだ。そんなものは単なる身の上話にすぎないと一蹴する人もいるかもしれないが、これはきわめて有効な方法だ。
一人称で語るナラティブには、イソップ物語のようにちょっとした教訓や倫理観を伝える力があるし、こっそりと秘話を伝えるような親密さもある。一方の道のりには、いまどこにいて、どこからきたのかを伝える力がある。1人の人間として自分のことを知ってもらったうえで、どんな期待に応えられるかを明示できるのだ。
そうすれば相手に知ってもらいたいことを、あなたのほうから発信できる。有形であろうと無形であろうと、あなたに関する事実に基づく情報をまとめて提示できるのだ―あくまでも、あなたの好きなようにまとめて。
相手がまとめるのではない。そこが肝心だ。どこの世界にも、あなたの説明書を勝手に書きあげようとする人がいる。自分が気づいたちょっとした手がかりをもとに、あなたという人間像をつくりあげてしまうのだ。もちろん、そこには偏見も混入する。だから、こちらから自分がたどってきた道を説明しよう。そうすれば相手からハンドルを奪い、あなたが望む方向に進めるようになる。
相手があなたに対する固定観念をいっそう強めてしまえば、あとからその考えを覆すには多大な努力を要する。そうなる前に、こちらが主導権を握るのだ。
私が大学の人事委員会の面々に対してとったのも、まさにこの行動だった。私の論文がジャーナルに掲載されていないからと候補から外される前に、自分でハンドルを握り、実に画期的かつ革新的な研究の成果をあげたことを伝えたのだ。すると教授陣は、私の経歴以外のところに目を向けるようになった。そして、一流ではない大学院の候補者を採用するのはリスクが高いという考えをあらため、ダイヤモンドの原石に賭けてみようという気になってくれたのである。
このように、「私はこの組織にふさわしい道筋をたどってきたのです」と明示できれば、価値をわかってもらえる。相手を豊かにできることも伝えられる。
さて、あなたは自分の道のりについて、なにを知ってもらいたいだろう? あなたには相手を豊かにする能力があり、大きな可能性があることを、どうすれば伝えられるだろう?
それはなにも難しいことではない。たとえば、X地点からY地点にどうやって行くつもりなのか、複雑な説明をあれこれする必要はない。というのも、あなたがストーリーを語れば、相手が話に飛びついてくるからだ。
あなたがこれまでたどってきた軌跡を手がかりとして、相手はあなたのことを解釈する。すると、あなたのことがあざやかに印象に残るのだ。そうなれば、相手はあなたに自然と関心をもち、積極的に関わろうとする。というのも、こちらには伸びしろがあることを伝え、これからどんな道が拓けているかをしっかりと知らせることができたからだ。その結果、あなたがどういう経過を経ていまのような考えをもつようになったのかを、相手は理解する。
ただし、あなたはあくまでも、自分の道のりを説明するだけでいい。それは間違いなくあなた独自のもので、他人のそれとは違う。相手があなたの話のどこに関心をもち、どう解釈するかは、あくまでも相手に任せてもらいたい。
(本原稿は『ハーバードの人の心をつかむ力』〔ローラ・ファン著、栗木さつき訳〕から抜粋、編集したものです)