貴賓庁ビジネスが停止したら、マカオGDPの4分の1が消失する

 これはマカオにとって大打撃である。というのも、新型コロナ大流行前の2019年の統計では、カジノ関連収入はマカオ政府収入の8割以上を占め、さらにマカオGDPの半分以上を支えている。貴賓庁ビジネスはさらにそのカジノ売り上げの約5割を占めており、貴賓庁ビジネスの停止によって政府収入の4割とマカオGDPの4分の1がそのまま消失することになってしまうからだ。また、カジノ、それも大金を落とす上顧客の受け入れができなくなれば、観光や交通など関連事業への影響も甚大である。

 特に周CEO傘下の太陽城集団は前述したように貴賓庁ビジネスの半分を握っており、一説にはマカオ市民が手にする1万マカオ・パタカのうち3000パタカは太陽城が稼ぎ出したという言説も存在するくらいの存在感なのである(編注:カジノ税という潤沢な財源があるマカオでは、富の還元などを理由に、毎年マカオ市民に1万パタカを支給している。日本円換算で約14万円)。

 カジノ事業を「悪」とみなす人たちは事件を笑って見ているが、真剣にマカオの未来を考える人たちは、経済不安、雇用不安を口にする。マカオは「大学や大学院を出ても、マカオにはディーラーの仕事しかない」といわれるほどカジノ業界に頼り切りの社会であり、それが今回の事件で収縮していくとなると、多くの人たちが一挙に職を失うことになるからだ。

マカオのコタイ地区には、ラスベガスと同系列の大型カジノホテルが建ち並ぶ Photo:A.Yマカオのコタイ地区には、ラスベガスと同系列の大型カジノホテルが建ち並ぶ Photo:A.Y.

周CEO逮捕、中国政府の狙いはマカオのカジノつぶし?

 今回の「新カジノ王」逮捕の本意は「中央政府による確固たるカジノつぶし」にあるという声もある。香港の一国二制度の形骸化とともにマカオの伝統を持った二制度も消えていくのか。その先にあるのは、中国政府が現在進めている「大湾区」計画なのかもしれない。

「大湾区」計画は、香港、マカオの特別行政区とともに、広東省内の経済的に豊かな深セン市や広州市など11都市を連携させ、大規模経済圏をつくるという大計画で、現在、急ピッチで進められている。経済や人的往来の自由化のみではなく、将来的には法制度もすべて相互流通を目指すことをうたっている以上、マカオのカジノ経済は中国政府にとっては「余計なもの」であることは間違いないだろう。

 香港やマカオというそれぞれ特色ある都市が今後間違いなく巻き込まれていくことになる「大湾区」計画については、今後また改めて紹介していこうと思う。