裏目に出た
切り札の役員処分発表

 第三の注目ポイントは、新旧役員12人に対する処分だった。漆間社長が月額報酬の50%を4カ月分返上するなど、報酬の減額・返納が行われた。引責辞任した柵山会長や杉山社長(いずれも当時)も対象だった。全容解明前ではあるが経営責任の明確化を急いだという。

 企業不祥事において、役員の辞任や処分という、いわば“首を差し出す”ことは、過去との決別を世論に訴える必死のジェスチャーだ。

 三菱電機が処分公表を、会見を乗り切るための切り札と考えていたのは容易に想像できる。前回の調査委第1回報告が公表された10月1日には、柵山会長(当時)が辞任している。

 日経新聞が会見2日前、12月21日夕の電子版で、「不正見逃した経営陣ら処分へ 報酬返納・減額」とスクープしたのも、報道をリードするための内部リークとみてうがちすぎではあるまい。

 だが、皮肉なことに、メディアの矛先は漆間社長の責任論へと向かった。

 処分の根拠となったのは、社外弁護士らからなるガバナンスレビュー委員会の報告。2016~18年度に3回にわたって全社で品質点検を行ったにもかかわらず、不正を見逃した歴代経営陣の責任は重いと判断した。

 漆間社長についても、担当執行役員時代に「重い責任」があると認定された。「社長を退かないのはなぜか?」。容赦ない質問が繰り返し飛んだ。ここで弱気な発言があれば一気に辞任観測が高まる。漆間社長は繰り返し慎重に辞意を否定した。

 結果、続投を問題視するかのような報道が少なくなかった。辞任へ道をつけたと考えるメディアもあったことだろう。

 朝日新聞は12月24日付1面の記事「三菱電機また不正、役員12人処分発表 前社長辞任後も改めず」で、「漆間氏はこの日の会見で責任を認めつつ、辞任については『信頼を回復するのが責務だ』と否定した」と書いた。その前日の23日夕の共同電も「引責辞任を否定」と、殊更に報じた。