企業も家計も困窮するコスト
プッシュのインフレが起きつつある

 そうなれば、原油や穀物の国際価格が横ばいで推移したとしても円建ての輸入価格の上昇は続く。貿易収支が悪化し、それがまた円が売られる材料になるという連鎖が動き始める。コストプッシュの物価上昇が続くことになる。

 消費者物価上昇率は11月で前年同月比0.5%と低い。しかし、ここには、21年4月の携帯電話料金値下げという特殊要因がある。その影響で1.5%前後引き下げられており、実態は2%前後である。それでも企業物価に比べれば上昇率は低い。

 ただ、これまでと違い「人手不足故に人件費で吸収することは難しくなっている」(河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト)。故に、原油高や円安などで輸入物価、企業物価の上昇が続けば、転嫁は徐々にではあるが進み、消費者物価を押し上げるだろう。

 消費が増えて、需給がきつくなり価格が上がる。売り上げが増加した企業が賃金を上げる。それでまた消費が増える。これが、日本銀行が目指していた物価上昇の形である。

 しかし、今起きつつあるのは、石油ショック時と同じ、輸入品を中心とした原材料費高から起こるコストプッシュの“悪い物価上昇”だ。収益が圧迫された企業が、川下の価格に転嫁する。それ故、企業に賃上げをする余裕はない。消費は増えない。家計も企業も困窮するだけである。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata