「病院に来ない人」に情報を届けたかった
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は開設3年で1000万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー9万人超。著書に『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)『医者が教える正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います~知っているようで知らない医学の言葉55』(以上、幻冬舎)、『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。
Twitterアカウント:https://twitter.com/keiyou30
公式サイト:https://keiyouwhite.com
Tomy:山本先生は、かなり前から「書きたい」という気持ちが強くて、新聞にも投書をされていたんですよね。
山本:2013年、28歳の頃、医師になって3年目ぐらいに新聞への投書を始めたんです。自分の書いたものを誰かに読んでもらいたいと思ったときに、一介の勤務医にすぎない自分に何ができるかと考えた結果、思いついた手段が新聞の投書だったんです。
書きたいと思ったきっかけは、医学生の頃に一生懸命勉強をして、医学の知識をたくさん手に入れたにもかかわらず、臨床現場ではせっかくの知識を十分生かせていないという壁にぶち当たったことでした。
例えば、自分が適切だと思った治療を患者さんに提供しようとしても、患者さんが医療に不信感を持っていたり、ネットや週刊誌などから偏った知識を得てしまったりすることで、治療をやめてしまうとか、病院に通うのをやめてしまうことがあります。
特に外科医になって、がんの患者さんをたくさん診るようになったとき、がん治療に不信感を抱いて、科学的根拠のない治療に傾倒する人が結構いるという事実に直面したんですね。とはいえ、その場で「いや、違うんです。エビデンスのあるこの治療が……」という説明をしても逆効果になりかねないので、病気になる前に多くの人に適切な情報を届ける必要があると思ったんです。
Tomy:なるほど。
山本:しかも、インターネット上の怪しげな記事や、書店に並ぶ科学的根拠に乏しい本を読み、その情報を信用してしまって最初から病院に来ない人もいます。そう考えれば、途中から病院に来なくなってしまう人というのは、氷山の一角です。
僕たちは病院に来る人にしか会えないので、病院に来ない人にもリーチするような情報を発信したいと考え、思いついたのが新聞の投書だったんです。
ブログをきっかけに書籍化が実現
Tomy:文章家になりたいという願望と医学というものが別々にあったわけではなくて、文章による医学的な啓蒙が必要だとお考えになったわけですね。
山本:そうですね。本を書きたいという思いも、実はその頃からありました。というのも、自分自身が本を読んだことで間違った知識を刷り込まれた経験があって、本の影響力や怖さを身をもって体感していたので、その影響力をいい方向に使いたいとの思いがあったんです。
ただ、本を書きたいと思ってもすぐに書けるわけがないので、まずは病院によく来る中高年世代がよく読んでいる新聞に投書をしよう、と。新聞に名前がたくさん載ったら、そのうち「本を書きませんか?」というオファーが来るのではないか、という下心もありました。
Tomy:僕の場合は、もともと本が好きだったこともあり、物書きになりたいという夢があったんですけど、親から医者になることを期待されていたのもあって、その夢はいったん忘れて医学部に進学しました。
実家のクリニックを継いだタイミングで父親がくも膜下出血で倒れて、介護をしながら診療をしていたんですが、1年後に父親が亡くなってしまって……。時間がぽっかり空いてしまったのでブログに投稿を始めたところ、しばらくするとアクセス数が増えてきました。
当時はブログでアクセスが増えたら書籍化するという流れがあったので、自分にも「本を出しませんか?」という話がくるかもしれないと思い、「精神科医Tomy」という名刺を作って、出版業界の人が集まる異業種交流会で配りまくったりしていました。
山本:Tomy先生にも、書きたいという沸騰するような思いがあったんですね。僕と似てると思います。
Tomy:その後、ブログをきっかけに5冊くらい出版できたんですけど、そんなに売れなかったんです。僕は父親の死とパートナーとの死別を経験していたので、死別を経験した人の気持ちを救うような本を書きたいと思うようになり、次はそういう本を書いて、売れなかったらもう本を書くのはやめようと考えてました。
で、ある異業種交流会で出会った方とのご縁で出版の話が進んだんですけど、1章まで書いたところで企画がポシャってしまって……。担当の方が会社を退職されるというので「引継ぎはどうなるんですか?」と尋ねたら「私のいる部門ごとなくなることになったので、好きにお持ちいただいて結構です」と言われてしまい、「これはもう本を書くな!」ということだと思って落ち込みました。
それまで本のネタ集めのために、辛いとき思いついたこととか、患者さんに投げかけて反応が良かった言葉などを全部メモってたんですけど、もう本に書く機会もないだろうと思いTwitterで発信し始めたら、そこから書籍化につながるという思わぬ展開が待っていたんです。
(構成:渡辺稔大)