そして二つ目の機能として、山の中の原材料表示は教室の黒板をイメージさせる手書きの表現にしました。彼らには「賢い消費者を育てる」という経営理念があったため、教育コンテンツのように内容の情報を記述したかったのです。これは「擬態」的なアイデアです。

山口県企業のパッケージがドイツで金賞!「進化思考」的ブランディングとは

 さて、実際に出来上がったパッケージを見てみてください。確かに前面に、巨大な内容表示が書かれていますね。食品パッケージにはさまざまな制約がありますが、ここだけは絶対に妥協したくないポイントでした。

 ブランドのアイデンティティーでは、地元山口と秋川牧園のつながりを示すため、「山を口に入れる」をコンセプトにロゴをデザインしました。このロゴデザインにも秘密があります。牛の模様をよく見てください。じつはこれ、秋川牧園の農園や工場がある山口県と福岡県の模様になっています。

山口県企業のパッケージがドイツで金賞!「進化思考」的ブランディングとは
山口県企業のパッケージがドイツで金賞!「進化思考」的ブランディングとはNOSIGNER作成

 こうして出来上がった秋川牧園のパッケージ。どう見ても日本語のデザインですが、遠いドイツを代表する大きなデザイン賞のグランプリになりました。おそらく原材料表示を大きくする手法や、山並みをつないで棚を戦略的に活かす全体設計は、言葉を超えて普遍的な手法だと認識してくれたのでしょう。

山口県企業のパッケージがドイツで金賞!「進化思考」的ブランディングとは

 少しはしょりましたが、一つのデザインができるまでの「変異と適応の往復」をたどりました。強い変異的な仮説を立てて、その仮説を可視化し、もう一度適応的な選択にかける。これらを繰り返すことで、アイデアは磨かれていきます。この振動を揺れが止まるまで何度も往復していくと、いつしかデザインの完成度が上がっていくわけです。作ったものをより良くするために、「何度も捨てる作業」を繰り返すという前提を持てるかどうか。固定観念に縛られず、変化を繰り返し試せるかどうか。そして、観察から本質的な理由を確認できるかどうか。プロジェクトの創出には、こうした「変異と適応の両立」が求められるのです。