新日本酒紀行「春鶯囀」酒蔵外観 Photo by Yohko Yamamoto

飲み飽きない酒、幸せに寄り添う酒を目指す、かもさるる蔵

 富士川舟運で栄えた萬屋醸造店は、創業1790年の老舗蔵。歌人の与謝野晶子がこの蔵を訪れて詠んだ「法隆寺などゆく如し甲斐の御酒春鶯囀(しゆんのうてん)のかもさるゝ蔵」に6代目が感銘し、銘柄を一力正宗から「春鶯囀」に改名。8代目は、地元で酒米玉栄(たまさかえ)の契約栽培を開始。ぬる燗でおいしい辛口酒に特化するなど意欲的だったが、2016年に62歳で急逝。後継者難で酒蔵は廃業の危機に陥った。

 その窮地を救ったのが、地元の穀物メーカーはくばくだ。1953年に発売した、大麦から黒い筋を取った「白麦(はくばく)米」が社名の由来で、大麦の国内シェア6割を誇り「日本の食卓には雑穀がある」と健康的な主食を提案する。本店は蔵と同じ富士川町にあり「町から酒蔵をなくしてはならない」と手を差し伸べた。経営者は代わっても従来通りの酒造りが行われ、高齢で杜氏が引退すると、頭(かしら)を務めていた芦沢祥行さんに交代。すると品質が徐々に上がり、24年の全国新酒鑑評会では金賞を受賞した。「工程を細かく見直して磨きをかけ、丁寧な酒造りを心掛けています」と芦沢さん。