進化するロボット技術を制御できるか
「ロボット三原則」「ロボット工学」の発明
ロボットが社会に広がったトレンドにおける重要な転換点は、シミュレーションの回でも触れたSF作家、アイザック・アシモフによってもたらされた。
『R.U.R.』は被造物であるロボットの反乱をテーマにしており(反乱後の話も描かれているが、あまり有名ではない)、この影響を受けた後の作品群は、ロボットによる「反乱」をテーマにしたものが多い。アシモフは、こうした被造物に支配される人間の恐怖心を『フランケンシュタイン』のストーリーから「フランケンシュタインコンプレックス」と呼んだ。
このコンプレックスは、ロボットが人工物であり、人間の作った論理に従うシステムだという側面を無視して生じるものだが、アシモフはその理由を、機械を怪物と同等に扱っているからだと考えた。
そこで彼は、ロボットを制御するためのルール「ロボット三原則」を考案する。
ロボット三原則は、ロボットの行動の優先順位を「人間の生命→人間の命令→自己保存」と原則化したものである。同時にアシモフは、こうしたロボットの制御に関する問題を「学問」の一種と考え、「ロボティクス(ロボット工学)」という造語を考案した。
彼はこのアイデアを基に、ロボットが生み出すさまざまなトラブルを、この三原則から導く、一種の思考ミステリーとなる短編集を書き出していく。厳密に言えば、ロボット三原則はロボットを思い通りに動かすための完璧なルールとはなっていない。しかし、ロボットによって起きてしまった現象を、人間が理解するために欠かせないツールであり、これ以降、ロボットは「ルールで制御された人工物の物語」という観点が付け加わることになる。
SFからビジネスへ
産業用ロボットの誕生
チャペックからアシモフに連なるロボットのトレンドは、社会に強い影響を与えたが、その最も大きな影響は「産業用ロボット」分野の誕生だろう。
産業用ロボットは工場での組み立てに使われる、腕型をしたロボットである。日本はこの分野で高い競争力を誇っており、中国に次いで世界第2位の出荷台数となっている。日本の基幹産業である自動車産業をはじめ、多くの産業がこの産業用ロボットに支えられている。
産業用ロボットを会社として初めて作ったのが、米国の発明家ジョージ・デヴォルと、技術者のジョセフ・エンゲルバーガーである。
デヴォルは、前述のウェスティングハウス社の「エレクトロ」の製作に関わった人物であり、エンゲルバーガーはアシモフの熱狂的なファンだった。この2人がカクテルパーティーで出会い、アシモフの小説の話で大いに盛り上がったそうだ。意気投合した2人は特許を申請し、初の産業用ロボット販売会社「ユニメーション」を設立、61年から初の産業用ロボット「ユニメート」を販売することになる。
特にエンゲルバーガーは「産業用ロボットの父」として知られており、日本を含め世界各国で多数の賞を受賞する。彼は特に、ロボット三原則が第一条で「人間を傷つけてはならない」と規定したことに大きく影響を受けたと述べている。彼が80年に出版した『実用ロボット工学:産業用ロボットの管理と応用』では、そのアシモフが序文を寄せている。
『R.U.R.』から始まったロボットのトレンドは、このようにして起業家と技術者を媒介し、世の中を変える原動力になっていった。冒頭のビル・ゲイツの話については、まだ多くの流れを話さなければならないが、それはまたの機会に譲りたい。