意思決定が「遅い」だけで、
生産性は確実に落ちる

「決めて、断つ」覚悟をもつ──。

 こう書くと重責を背負いこむように感じるかもしれませんが、そんなに大げさに考えることではありません。

 なぜなら、課長クラスの管理職の決断によって、会社がつぶれるほどのことはまず起こり得ないからです。それよりも恐いのは、決断を遅らせることであり、決断から逃げることです。そのとき、私たちは二つの代償を支払うことになるのです。

 まず第一に、決断を遅らせることによって、チームの生産性は確実に低下します。

 生産性を上げるのは、常に現場です。そして、現場のメンバーは、組織的な意思決定がなければ、具体的なアクションを起こすことができません。つまり、意思決定が遅いということは、現場の動きを止めることにほかならないということ。「遅い」というだけで、生産性は確実に落ちるのです。

 第二に、「決断しない管理職」に対して、メンバーが信頼を失う結果を招きます。

 意思決定すべきときに決断できずに、“先延ばし”する管理職に対して、判断に迷って上司に相談にきたメンバーや、意思決定してもらおうと一生懸命に提案書をまとめたメンバーが不満を感じるのは当然のことでしょう。そして、判断ミスを恐れて「保身」に走る上司に対して不信感をもつのも無理のないことです。そして、そのとき、一気にチームは求心力を失ってしまうのです。

意思決定のパラドックスを
克服する「思考法」とは?

 とはいえ、もちろん拙速な意思決定でよいわけではありません。

 成功確率の低い意思決定を闇雲に行っているようでは、どんなにメンバーが懸命に頑張っても生産性は上がらず、ただ疲弊していくだけでしょう。当たり前のことですが、精度の高い意思決定こそが、「よい意思決定」なのです。

 ただし、ここに“落とし穴”があります。

 意思決定の精度を高めるために、情報収集や市場調査などに過大な時間・労力をかけてしまう結果、意思決定のスピードが落ちるうえに、メンバーに本来業務以外の負担を過重にかける結果を招くからです。

 つまり、意思決定の精度にこだわりすぎると、かえって「よい意思決定」から遠ざかるというパラドックスがあるわけです。

 では、このパラドックスをどう解決すればいいのでしょうか?

 ここでも、私が参考にしたのは「孫の二乗の兵法」でした。このなかに「七」という項があるのですが、「七」とは「勝率7割で勝負をする」という意味です。勝率5割で戦いを仕掛けるのは愚かだが、勝率9割まで待つと手遅れになる。だから、7割の勝率で勝負をするというわけです。

 これは、管理職の意思決定にもあてはまる考え方です。100点ではなく70点の意思決定をめざすことによって、「スピード」と「精度」を両立させるわけです。もちろん、「これが70点の基準」という明確なモノサシがあるわけではありませんから、最終的には管理職の胆力で「7割の勝算がある」と決断するほかありません。

 ですから、当然、間違えることもあります。

 でも、それでいいのです。というか、「間違い」を織り込んだうえで、「70点の意思決定」を最速で行うことが、実は、最も精度の高い意思決定を実現する方法なのです。