管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

孫正義社長に学んだ“成功するリーダー”の「七割思考」とは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

意思決定とは「決めて断つ」ことである

 管理職は、日々、「意思決定」を求められます。

 メンバーから相談を受けたとき、トラブルが発生したとき、チームの事業内容・方針を決めるときなど、複数の選択肢のなかから「これでいこう」と決めなければならない。次から次へと求められる「意思決定」に、いかに対応するか。これは、管理職の核心的な職務と言っていいでしょう。

 当たり前のことですが、意思決定とは多数決ではありません。もちろん、チーム内の庶務的なルールに関するようなことは多数決で決めてもよいでしょうが、事業提案に類するような場合に多数決は絶対にNGです。

 意思決定権限をもつのは管理職ですから、多数決は単なる責任逃れ。自らの責任において意思決定する。これが、絶対的な法則であることを忘れてはなりません。

 私は、これをソフトバンク時代に叩き込まれました。

 恥ずかしい思い出があります。同社で管理職になりたての頃に、チーム内の会議で「意思決定」をしなければならない場面があったのですが、その場で「決める」ことができずに“先延ばし”にしてしまったのです。そのとき、上司から「君には決断力がないのか?」と厳しい指摘を受けました。

「決断する」とはどういうことか?

 このとき、私は改めて深く考えてみようと思いました。

 参考にしたのは、孫正義社長がつくった経営方針である「孫の二乗の兵法」でした。その中にある「略」という項を何度も読み返して、私なりに次のように解釈しました。「略」とは戦略の「略」のことですが、この言葉には「大事なところだけ残して、他を除き去る」という意味があります。つまり、戦略とは「あれもこれもやろう」とすることではなく、「あれかこれか」を選択して、その一点に集中することだということです。

 だから、何かを決めるときには「決断」しなければならない。決断するとは「決めて、断つ」ことを指します。A案B案があるときには、どちらかを採って、どちらかを断ち切らなければならない。そして、もしかしたら選択を間違えるかもしれない。その恐怖心も断ち切らなければならない。つまり、意思決定とは「断つ」覚悟を決めることなのです。

孫正義社長に学んだ“成功するリーダー”の「七割思考」とは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務