仕事中に椅子から立ち上がるときや運動を楽しんでいる最中に、ふらつきを感じたり転びそうになったりした経験はないだろうか。ふらつきが頻繁にある場合は、平衡感覚が低下しているかもしれない。人間の体では、日中の活動中にパフォーマンスを維持するため、平衡感覚が常に働いている。視覚・聴覚・感覚受容器などさまざまな器官が複雑に作用し合い、平衡感覚が保たれているのだ。書籍『Life Kinetik(R) 脳が活性化する世界最先端の方法』(ダイヤモンド社)をヒントに、健康的な平衡感覚を保つメリットを探る。(文/鈴木 舞)
放っておくと大事に?
体のふらつきを引き起こす生活習慣
朝食を抜いた日や多忙で睡眠不足のときは、ふらつきを感じることがあるだろう。この場合は、体が必要とする栄養や休息が足りていないのが主な原因だ。エネルギーを摂取して十分な睡眠時間を確保すれば、ふらつきは改善されることが多い。飲み会続きや飲み過ぎを原因とするふらつきも、アルコールが体から抜ければ症状は治まることがほとんどだ。
そもそも平衡感覚とは、重力の方向に対して体の動きや位置を判別する感覚を指す。平衡感覚を司る器官は主に2つ。重力の受容器となる前庭と角加速度の受容器となる半規管だ。前庭の働きは、体がどの位置にあるか、直進運動はどのスピードで行われているかを感じ取ること。半規管の働きは、回転運動の情報を受け取ることだ。これらの感覚器官が正常に働くと、平衡覚の中枢である大脳皮質頭頂葉に情報が届けられ、体のバランスが保たれる。
体のバランスを保つ平衡感覚そのものが低下している場合は、時間が過ぎるのを待てば待つほど事態は悪化しかねない。平衡感覚は、加齢によって低下することが指摘されているからだ。というのも、平衡感覚を司る耳の三半規管や前庭は、加齢とともに機能が低下してしまうのだ。
加齢のほか、平衡感覚の低下は長時間にわたる座位や安静状態が一因だと考えられている。つまりは運動不足だ。脳に関する科学的検証や考察をまとめた書籍『Life Kinetik(R) 脳が活性化する世界最先端の方法』(ホルスト・ルッツ著、ダイヤモンド社)でも、運動不足が体にもたらすデメリットをこう述べている。
「アルコールを摂取していなくても平衡感覚がひどく低下してしまっている人も多くいます。それにはたいてい、座って行う作業を長時間続けていることが関係しています。そのような人のほとんどが、スポーツのような平衡感覚を養う負荷を身体にかけていないからです」