管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

“ダメなリーダー”が忘れている「会議は1円も生み出さない」という真理写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

質の高い「会議」を実現するために、
「一座建立」の精神を共有する

 チーム運営において「定例会議」は非常に重要な意味があります。

 チームにおける重要な意思決定を行う場であるのはもちろんのこと、重要な案件についてお互いに意見をぶつけ合うことで、チームの「目的」「目標」「価値観」「指針」などを共有する絶好の機会だからです。

 しかも、どのような議論が交わされて、どのような意思決定が行われるかを体験することによって、若手メンバーは「GOサイン」をもらうためには、どういう提案をする必要があるのかを学べるということも重要なポイントです。

 このように、会議は大事な「人材育成」の場なのですから、打ち解けた雰囲気とほどよい緊張感を保ちながら、質の高い「定例会議」を行うことは、管理職にとってきわめて重要な使命と言うべきです。

 だから、私は常々、メンバーに「会議は一座建立(いちざこんりゅう)」と伝え続けていました。

「一座建立」とは茶道の言葉で、茶席を開く人と招かれたお客の双方が、「その場をいいものにしよう」という気持ちで通じ合うことを指します。

 これは、会議も同じです。「管理職だから」「ベテランだから」「新人だから」とかは一切関係がない。権限をもつ管理職や実績のあるベテランだから偉いわけでもなく、新人だから偉くないわけでもない。それぞれの役割を踏まえながら、メンバー全員が「一座建立」の精神で力を合わせたときに、はじめて質の高い会議は生み出されるのです。

 そのために、メンバーに徹底してもらったのは、「遠慮はするな、謙虚であれ」という指針です。

 会議とは、メンバー全員の知恵や情報を総動員することによって、チームとしてよりよい意思決定をするために行うものです。そして、全員が当事者としてディスカッションに参加することによって、意思決定に対するコンセンサスやコミットメントを深めてもらうことが大切です。だから、率直に言って、発言をしようとしないメンバーに存在意義はありません。

 特に、若手メンバーは「自分は実績・経験が足りないから」「自分は知識が足りないから」などと気遅れしがちですから、管理職が「遠慮せずに、発言しなさい」「経験が足りない君にしか、見えないこともあるはず。その意見を聞きたい」などと促すことによって、背中を押してあげる必要があります。

 ただし、謙虚さを忘れてはいけません。

 ここで言う謙虚さとは、妙にへりくだることではありません。そうではなく、「自分とは異なる意見であっても、それを尊重する」「自分の意見が正しいと盲信しない」「みんなで力を合わせることでこそ、最適解が見つかる」といった認識を根底にもつことです。

 だから、もしも、メンバーのなかにこうした認識に欠ける言動をする人がいたら、適切に牽制することが必要となります。いや、実は、この謙虚さを忘れてしまう恐れが一番高いのが管理職である、という自覚をもつことが大切です。そして、管理職が「謙虚な姿勢」を模範として示し続けることによってこそ、「一座建立」の精神がチームに浸透していくのです。

“ダメなリーダー”が忘れている「会議は1円も生み出さない」という真理前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務