中国産アサリの21年1年間の輸入量は、農林水産物輸出入情報によると、約2万6000トン、金額にして約48億9300万円なので、1kg当たり約188円となる。

 一方、東京都中央卸売市場のアサリの平均価格は、20年12月~21年12月までの13カ月間で649円である。

 したがって、中国産アサリを、国産アサリとして卸売りすれば、1kg当たり461円の利益(利ザヤ)になるのだ。輸入業者から卸売業者まで、いくつの業者を経由されるのかわからないが、産地表示を変えるだけでこれだけの利ザヤが出る。偽装集団にとって、こんなうまい話はないのだ。

 ちなみに韓国産アサリは、21年1年間の輸入量が約5752トン、金額が19億6900万円。1kg当たり約342円なので利ザヤは307円しかない。それでも大きな稼ぎになるが、中国産に比べると輸入量は5分の1と少なく、利ザヤも150円ほど少ないので、偽装する側にすると中国産よりうまみが少ない。

 農水省が摘発した、先述の熊本県の水産会社は、約40日間で約611トン偽装していた。

 1kg当たり400円の利ザヤだったとすると、611トンで2億4440万円もの利ザヤを稼いだことになる。認定されたのは40日間分だが、もっと長期間にわたって偽装を繰り返していた可能性はないのだろうか。

 いずれにせよ、この業者は、摘発されたといっても「適正な表示をするように」と農水省から指導されたにすぎない。注意されただけであって、関係者が逮捕されたわけでもなく、課徴金(罰金)を徴収されることもなかった。これでは「偽装したもの勝ち」だろう。

 悪質な偽装表示には、不正競争防止法を適用し、懲役や罰金といった刑事措置を取った例は数多くあるが、今回の中国産アサリの偽装には不正競争防止法を適用していない。まだ、調査中ということもあるかもしれないが、厳罰を与えない限り、偽装は繰り返されるだろう。