産地偽装を防ぐための
トレーサビリティが必要

 では、偽装を防止するにはどうしたらよいだろうか。農水省は、各種食品産業について「食品トレーサビリティ(生産、加工および流通の特定の一つまたは複数の段階を通じて、食品の移動を把握すること)」を実践するように奨励している。具体的なマニュアルも作って公開している。

 ただし、法的に義務付けられているわけではない。法律として定められているのは「牛肉のトレーサビリティ(牛トレサ法)」と「米のトレーサビリティ(米トレサ法)」の2つだけである。

 しかも、トレーサビリティの目的は、食品の移動を把握することで「食品事故」や「クレーム対応」に役立てることにある。偽装表示防止が目的ではない。

 牛トレサ法は、一部で偽装防止策としての一定の効果を上げているが、米トレサ法は偽装防止にはほとんど役立っていない。その最大の理由は、牛は個体が大きいので番号を付けた耳標を生まれたての牛に装着することで管理できるが、米は米粒一つ一つに番号を付けることができないからだ。

 ところが、偽装防止のためにトレーサビリティを実施している食材がある。それは、松阪牛と越前がにだ。

 松阪肉牛協会は、松阪肉牛協会の会員証として、販売店や飲食店などに、「松阪牛」と大きく表示された木の看板を設置させている。越前がには、セリの前に漁業組合員が目印となる黄色いタグを取り付けている。

 どちらもブランド食材として偽装が多かったこともあり、販売店や飲食店、消費者にも見分けがつくように工夫されている。

 こうした取り組みは、国が奨励しているトレーサビリティとは大きく異なる。

 国が推し進めているトレーサビリティは、川下(消費者や販売店等)で食中毒や異物混入などが起きたときに、川下からさかのぼって追跡(トレース)していく仕組みになっている。