ハーバード大教授が日産の危機管理対策を「世界のリーダーのお手本」と語る理由Photo:123RF

2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大により世界は一変した。あらゆる企業が、迅速な対策や方針転換を余儀なくされた。そんな中、ハーバードビジネススクールのアナンス・ラマン教授は昨年、「日産自動車のパンデミック対策」をテーマに教材を執筆。同校の学生だけでなく、世界中の教員からも大きな反響を呼んだ。なぜ日産の危機管理対策に注目したのか。また、コロナ禍で大きな打撃を受けたサプライチェーンを立て直す上で重要なこととは。日産の事例を踏まえて解説してもらった。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

ハーバード教授が注目した
日産のリスクマネジメント

佐藤 ラマン教授は2021年6月に新たな教材「日産自動車のパンデミック対策」(Nissan's Response to the COVID-19 Pandemic)を出版しました。なぜ日産自動車(以下、日産)の危機管理対策を教材にしようと思ったのですか。

ラマン 日産のパンデミック対策をテーマに教材を書こうと思ったのは、パンデミックが起こる前から日産の優れたリスクマネジメントに注目していたからです。

 日本企業は全般的に外的要因がもたらす混乱に対する免疫力が高いですが、中でも日産の危機管理能力は卓越していると思います。その理由として考えられるのは、他の一般的な大企業より深刻な経営危機に陥った回数が多いことです。日産の歴史を振り返ってみれば、戦争、自然災害、金融危機など、ありとあらゆる危機を経験しています。日産ほど瀕死の状態から何度も蘇った企業はないでしょう。

 2011年3月に東日本大震災が起こった際、日産はトヨタ自動車やホンダよりも深刻な被害を受けました。私が驚いたのは、日産が震災後、他の自動車メーカーよりも早く生産体制を復活させたことです。

 危機をチャンスに変えて成功した企業の事例はたくさん知っていましたが、このときの日産の復元力にはただただ驚くばかりでした。どこよりも甚大な被害を受けたのに、どこよりも早く生産を復活できたのはなぜなのか。なぜこれほど効率的に生産体制を立て直せたのか。その理由をずっと知りたいと思っていました。

 2020年初頭にパンデミックが起こったときに、真っ先に取材したいと思ったのが日産でした。そこでCOOのアシュワニ・グプタ氏に連絡をして、日産のパンデミック対策について2時間ほどインタビューしました。

 グプタ氏は、日産の事業継続計画(BCP)がパンデミック下でどう機能したか、複雑なサプライチェーンをいかに維持したか、などについて語ってくれましたが、インタビューの直後、これは素晴らしい教材になると確信しました。そこですぐに執筆を開始し、2021年6月に教材として出版したのです。

佐藤 学生や教員から「日産自動車のパンデミック対策」に対してどのような反響がありましたか。