『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「自分はオタクだから差別されている」と感じる人が知らない差別のメカニズムPhoto: Adobe Stock

[質問]
 自分は漫画やアニメや二次創作(買うのも作るのも)が好きなオタクです。

 ただ冷静に考えて、自分が周りの一般の人(上記の趣味に入れ込まない人)に自分を趣味を受け入れてもらいたいのか、というとそうでもない事に気付きました。

 ただ常に周りから浮いている気がする。あなたは変わってるという扱いをされる事を、自分がオタクだからと思いたかったからかもしれません。

 周りから浮いてると思わなくなるにはどうしたらいいのでしょう。

「◯◯だから差別される」は間違いです

[読書猿の回答]
 お気付きになられたように、「オタク」であることと、周りから浮いている(と思う)ことは、別の話です。

 ただ「別の話」であることだけを強調すると「オタクを言い訳にせず、自分を磨け」みたいな精神論になってしまうですが、しかし両者を結びつけたくなる力が働いていることも言わないとフェアではないでしょう。

 その力の影響下にあるので、ご質問には「オタク差別」的な主張が含まれていますが、あなたの問題解決に役立つと思うので少し差別の話をしましょう。

 差別とは、排除の根拠として差異(ちがい)を再生産(捏造ないし「発掘」)し、排除を正当化しようとするメカニズムのことです。

 差別の影響下にいると、差別する側もされる側も「差異(ちがい)があるために差別(排除)される」という主張を信じる(信じさせる)ような圧力にさらされますが、本当は、差異(ちがい)は差別(排除)の原因ではなく結果です。

 個々人はすべて様々な側面において違っていますが、差別のメカニズムが働いている場では排除に必要な指標だけがピックアップされ(時に捏造されたり押し付けられ)、それ以外は認知の外に置かれます。

 今の文脈では、「オタク」であるか否かだけがピックアップされ、それ以外の側面が無視されることが、これにあたります。オタクの属性として押し付けられてきたものは時代や文脈ごとに様々に変わりましたが、このオーバーカテゴライズはどれにも共通していました。

 さらにいうと「変わってる」というカテゴリーについても同じことが言えます。

 あなたが目指すべきは、少なくとも、差別の影響下で右往左往すること、つまりオタクでなくなることや、変わった人でなくなることではありません。

追記
 今回の差別についての説明は、江原由美子『女性解放という思想』(勁草書房→増補版がちくま学芸文庫)によっています。差別について考える際には必ず当たるべき文献です。