書く行為は「サンプリング」

佐々木:この本の書き方のことをもうちょっと聞きたいんですけど、最初に影響を受けた本を、どんどん挙げていってリスト化したんですか?

pha:そうですね、今までに影響を受けて、紹介したいと思う本を書き出していきました。

佐々木:なるほど。本当に赤裸々に自分が受けた影響のことを書かれていますよね。たとえば、作家の保坂和志さんからの影響。保坂さんって猫が大好きなんですよね。保坂さんは、一軒家に、ただ夕方に日が差してきて、そこには猫がいて……、という本当に何も起こらない小説を書かれたりしています。

 phaさんは、猫好きの保坂さんに影響を受けて猫を飼っているという話も書いてあって、そんなこと書いて大丈夫なのか? と勝手に心配になったりしました。

pha:え、なぜですか?

佐々木:ネタバレ感がすごいじゃないですか。ルーツを隠したり、引用を隠したりする人もいると思うんですよ。そういう人だったら、猫との出会いを聞かれても「いやぁ、ある日気がついたら、布団のなかに猫がいたんだよね」みたいなことを言う気がして。でも、正直に書かれているのは誠実だなとも思うんですけどね。

pha:あー……。僕はあまりネタ元を隠す意識はないですね。そんなに自分がオリジナルだと思ってないし、自分の書くものは、自分が今まで読んだもののサンプリングでいい、と思ってます。この本も、自分はDJみたいな存在で、いろいろなレコードをかけているような、そんな気持ちで書いてますね。

佐々木:そこは僕も一緒です。本を書いているというよりも、雑誌を編集しているイメージなんです。「いろんな人が書いた文章を僕の視点でまとめて、一つの流れを作るとこうなりますよ」「特集を作るとこうなりますよ」みたいな感じです。

pha:たしかに、佐々木さんの本はそんな感じがありますね。佐々木さんが元編集者というのもあるんでしょうか。

佐々木:それはあると思いますね。自分のエピソードに普遍性がないと思っているところも同じ理由かもしれません。

pha:編集者的な立ち位置なんですね。

「このままでいい」という読書

佐々木:phaさんも日記を書かれたりしていますけど、そういう誰かの日記、何も起こらない日常を読むのはすごく好きなんですよね。おそらく自分がそういう日記を公開しても、読む人はいるんでしょうけど、なぜかそういうことを自分がやっていいと思える気持ちになれない。

pha:佐々木さんが自分のことを書いている文章もときどき出てくるけど、そういう部分も面白い、と僕は思ってますけどね。もっと書いてもいいんじゃないかな。

佐々木:もう少しそういうこともやってみてもいいのかもですね。ぼくもphaさんも好きなDCPRGというバンドをやっている菊地成孔さんのエッセイ集で、ブックガイドが載っているんです。でも、そこでもフロイトなんかの精神分析系は、自分の思想のバックグラウンドだから、とにかくネタバレするからダメで紹介しないと書いてあって(笑)。

 自分に影響を与えたもの、オールタイムベストを紹介したり、好きなものを出すことって、結構、勇気も必要だと思うんです。

pha:菊池さんはカッコつけたがる人ですからね。僕の今回の本は確かにネタ元をひたすらバラしていくという本ですね。

佐々木:phaさんが紹介する本って、すごく読みたくなるなと思うことが多いんです。それがなぜなのか、ちょっとわかった気がしますね。本を自分の人生に引きつけて読まれていて、切実なものがあるからなんじゃないかと思いました。

pha:そうですね。自分の生き方に関わっている本ばかり紹介していますね。自分が今みたいな生き方になったのは、「やはり本を読んできたからだ」と強く思うんですよね。

「あとがき」で書いたんですが、本で人生は変わったけど、自分自身が変わったわけじゃない。どういうことかというと、自分自身が社会に曲げられずに、もともとの性質を活かしながら生きていくことを、本が助けてくれたと思っています。本を読むことで、「別に社会の言うことは絶対なものじゃないんだ」と思うことができて、無理に自分を曲げなくても、「このままでいいんだ」と、自分らしさを保って生きてこれた感じがしています。