約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した、pha(ファ)氏。本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介した。
その刊行を記念して、『明日、機械がヒトになる』『キッズファイヤー・ドットコム』などの作品を持つ作家の海猫沢めろん氏との対談を行った。読書家である2人による、「もっと本が好きになる」ための読書談話をお送りする。
「ビジネスと短歌」の組み合わせ
pha:今回、僕の『人生の土台となる読書』という本が出ました。僕の人生を支えてくれた本や、今の生き方につながっている本を紹介した本です。その発売を記念して、一緒にエリーツというバンドをやっている仲間でもある、作家の海猫沢めろんさんと対談をしようということになりました。
海猫沢めろん(以下、海猫沢):海猫沢めろんです。よろしくお願いします。
pha:めろんさんは、いつも面白そうな本を読んでいますよね。僕より断然多くの本を読んでる。この本で紹介してる中でも、めろんさんに教えてもらった本がいくつかあります。
海猫沢:興味の範囲が似ているなと思いました。とても面白かったですね。phaさんっぽいなと思うポイントもいくつかありました。たとえば、「短歌」が紹介されているのが意外でした。
ブックガイドには、小説や自己啓発、哲学、サイエンス書がよく選ばれるけど、そういうビジネス系の人にとって「短歌」は一番役立たなそうじゃないですか。
pha:たしかに。
海猫沢:ビジネス書を作っている人たちから何年か前に聞いたのが、「次は小説がくる」という意見でした。哲学の思考がビジネスに受け入れられたみたいに、小説からビジネスの発想を学ぶ流れが来るかもしれないそうです。
pha:できなくはない気はしますね。SFとかが相性よさそう。SF的思考みたいな。
海猫沢:SFプロットタイピングとか、ビジネスの場でも、発想にSFの思考を使ったり、未来を見据える考えが浸透してきていますよね。IT企業にとって超重要なものじゃないですか。最近だと、フェイスブックがメタに社名が変わったじゃないですか。そもそもメタバースの元ネタって『スノウ・クラッシュ』ですからね。
pha:そういう意味でいうと、「短歌」はまだ無いですね。
海猫沢:次は、ビジネスと短歌の組み合わせが来るかもしれませんね。この本で紹介されていた奥村晃作さんの短歌とか、僕は知らなかったんですよね。「次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く」。当たり前なんだけど、おもろいですね。
pha:奥村さんの短歌は面白いんですよ。当たり前のことをそのまま言ってるだけなんだけど。
海猫沢:子どもにも読ませてみたいですね。どう思うんだろう。
pha:当たり前だと思うのか、意外と爆笑してくれたりするのか。
海猫沢:僕らは大人だから一周して、「なんか深いかも」と思うじゃないですか。
pha:これは「子どもの目線」なんですよね。だから、それを本物の子どもが見てどう思うのかは興味深いかも。しかしやっぱりビジネスにはつながりにくい気もするなあ。短歌は世界への違和感を表明するのは得意だけど、そこから現実的な何かを構築するというところまではいかないんですよね。