「正しい選択肢は存在しない」という言葉の危うさ

いやー、先輩たちからよく、30代が近づくと急にいろいろ不安になるみたいなことを聞いていて、それまではどういうことなのか想像もできなかったけど、こういうことなんだね。

みんなとは違う。

そうやって周りを見下していたのも、いま考えれば、やり直しがきかない現実から目を背けたかったからなのかもしれない。

周りを見渡せば、着実に成果を出している人たちの姿が見える。時代の流れに合った才能を身につけている人、転職した人、起業した人、家族と幸せそうに暮らしている人、子どもが生まれてお母さんになった人。

その誰もが充実しているように見えて、そして、その世界線にもし私も行っていたら、と想像する。私もこの写真のみんなのように、幸せそうに笑っていたんだろうか。活躍していたんだろうか。もっと充実して……成功して、いたんだろうか。

そんなことを想像しては、不安になる。その繰り返し。結婚や出産や転職や、いろいろな人生の分岐点が重なる時期だからこそ、そんなふうに何十通り、何百通りもの「イフ世界の自分」がSNSを見るたびにフラッシュバックして、不安になってしまうのだろう。

……というわけで、「もうやり直せないんだ」「結婚式に呼ばれまくる、友達がいっぱいいる私はもう戻ってこないんだ」という現実に打ちのめされ、その日は感情が爆発して大泣きしてしまったわけだが、まー、終わっちまったもんはしゃーないよね。取り返しがつかないんだし。

ただ思うのは、取り返しがつかないなら取り返しがつかないなりに、いまできる最善の選択を、自分が心の底から納得できる選択をし続けるしかない、ということだ。

正しい選択肢は存在しない。どの道を選ぼうとも、選んだ道が「正しかった」と言えるように努力し続けることが大事だ。たとえ失敗したとしても、成功するまで努力し続ければ、それは「失敗」にはならない。

これまでそう思っていたし、その考え方はいまでも変わらない。どんな選択肢も考え方・捉え方しだいでポジティブにもネガティブにも変わるだろう。

ただその一方で、その価値観を言い訳に、「自分にとっての最善解」を探し続ける努力を怠っちゃいかんよな、とも思うようになった。

どの道を選んでも正解にできるのだとすればむしろ、どんなことにでもチャレンジできるとも言えるじゃないか。

「正しい選択肢は存在しない」というのはその都度妥協せずに選択し続けてきた人間にこそ言える言葉であって、真剣に向き合い考えることを放棄した人間の言い訳として使われるべき言葉では、ない。

そう考えると、紛うことなきアラサーのいまもうんうん唸りながらあーでもないこーでもないと悩んでいる私は、もしかしたら「正しい」と言ってもいいのかもしれないなあ。牛歩でも迷いながらでもいいから、いま周りにいてくれる人たち、支えてくれる人たちに恩を返せるように、「あなたがいてよかった」と言ってもらえるように、精一杯がんばり続けるしかないんだよなあ、結局のところ。

……えー、というわけで「このまま30歳になって大丈夫か症候群」に苦しめられ、結婚式に呼ばれない人生に無理やり意義を持たせようとしているわけであるが。

いまさらながらひとつ、超重要な事実を見落としていたことに気がついてしまった。

……忙しいとか忙しくないとかそんなもん関係なくて、そもそも私の人間性に問題があるんじゃない?

本当にみんなに好かれてる人なら、どんな道を選んでようとふつうに呼んでもらえるのでは?

どの世界線に行こうと、私が結局「結婚式に呼ばれない人」「友達が少ない人」ルートから逃れられないっていうのは変わらないのでは……?

もしループ物アニメみたいに私に輪廻転生能力があったとして、何回人生やり直したとしても結局「くそっ! 何度ループしても結婚式に呼んでもらえない……!」「どうがんばっても友達ができねえ……!」みたいになるんじゃないの?

……

……

うわあああああ! もういやだあああああ!

30歳になりたくなああああい! 大人になりたくなああああい! ずっと甘えていたいよおおお!! ばぶう!!!

……えー。

お粗末様でした。

同年代すべての旧友たち、世界中の人たち、アラサーたちが幸せにならんことを、心よりお祈り申し上げます。

なんかもう悲しすぎるからどうでもいいわ!

アーメン!

このまま30歳になって大丈夫か症候群川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。