『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「自分の考えがわからない」人が抱えている実は恐ろしい呪いPhoto: Adobe Stock

[質問]
 配偶者についての相談なのですが、家や子どもなど将来について「あなたの考えも聞かせてほしい」と尋ねても前述のような返答しか返ってこず、考えていないのか、はたまた考えてはいるけど上手く言語化出来ないのかすらわかりません。一緒に暮らしているのに不安になるばかりです。

 家の将来だけでなく、自分の転職についても「どうしたいのかわからない」と言うばかりで、尋ねる私も相手をただ追い詰めているような罪悪感すら感じ、わかりたいが為にコミュニケーションをとろうとするのも怖くなっててしまいました。

「自分の考えがわからない」と言う人はどのような状態で、そういった相手とはどうしたら会話出来るのでしょうか。

繰り返し「自分の意見を否定されてきた」可能性があります

[読書猿の回答]
 一般に、ある行動が生じない場合、3つの原因が考えられます。

1.その行動が必要であると認知・理解するための知識がない
2.その行動のやり方が分かっていない
3.以前、その行動をとってひどい目に(繰り返し)合ってきた

 今回の場合、1については一方が意見を言わないとどういうことになるのかを背景から説明することで知識を与えることができるでしょう。

 2については、意見を言うことが具体的にどういうことなのかをまず説明し実際にやって見せることができますが、やってみせた例をそっくりオウム返しされても仕方がないので、自分の観点から問題について考える練習から必要になるかもしれません。

 もっともありそうで最も手ごわいのが3のケースです。

 意見を言う度に「逆らうな」と殴られたり人格を否定されるなど繰り返しひどい目に合ってきた人は〈意見を言わない)ことを反復学習しています。この学習は、本当に意見を言って欲しい人との間でも繰り返されてきたことが予想されます。意見をいうべき場面で言わない(言えない)人間は、そうした場面で「何も考えていない」などと周囲を怒らせ否定的に扱われるはずだからです。

 加えて3の理由を拗らせてみている人は、当然ながら1と2についても身に着けてこなかったことが多いので、「あなたの意見を否定しませんよ。なんでも言ってみて」と水を向けても、うまく意見が言えません。精一杯頑張ってポンコツな意見を言っても「……ああ、そういうのもあるね」と微妙な対応をされたことを「期待に応えられなかった(俺はダメな人間だ)」という否定的結果としてまた学習されたりします。

 対策としては再学習するしかないのですが、手始めとして、あなたが述べたプランについて、「どう思う?」みたいなオープンクエスチョンは荷が重いので、「うまくいくと思う?」のようなクローズドクエスチョンから初めて、「問題があるとしたらどこだと思う?」のような答えやすいオープンな問いへと少しずつ広げていってはどうでしょうか。

 こうして「問いに答える」→「意見のかけらを言う」→「あなたの意見が必要である」→「あなたの意見が役に立つ」という経験を積んでもらうわけです。