伊藤忠商事Photo:123RF

参謀の要諦を
業務部に移植

 瀬島龍三は業務部と他の部門のスタッフのために「スタッフ勤務の参考」というマニュアルを作った。長いマニュアルだけれど、言いたいことは次の二つだろう。

「スタッフの本質は補佐だ」

「主体(経営者)が方針を決定し、或は判断を下すのに必要なデータを機を失せず整備する事。出来れば、之に対し、自己の意見を追加する」

 あくまで幕僚であり、業務部は経営者の内意を元にして営業計画を立てる。ただ、計画に従って各部の監督をするのは業務部だから、現場としては小姑の小言のように感じたかもしれない。

「スタッフ勤務の参考」にはモデルがあった。瀬島が戦前、まとめた参謀論である。参謀の心構えとして、次のことが書いてある。

「参謀とは何かということだ。それは結局、参謀とは重責にある将帥の補佐者である。『統帥綱領』はそこを次のように述べている。

『幕僚は、諸資料を整備して、将帥の策案、決心を準備し、これを実行に移す事務を処理し、かつ軍隊の実行を注視す。軍隊に命令を下し、これを指揮するは、指揮官のみこれを行い得るものにして、幕僚は指揮官の委任あるにあらざれば、軍隊を部署する権能なきことを銘心するを要す」

「将帥は内外に対して極めて重大な責任を負い、常にその責任の重圧下にあるので、これを温かく補佐することで、少しでも将帥の責任の重圧を軽くし、将帥が平常心をもってその重任を全うできるように配慮すること」

「第一は内外にまたがる情報の収集整理で、特に実情を絶えず把握しておくことが必要である。第二は、それに基づいて、できるだけ広い視野で、少なくとも大局を誤らないように、策案を熱慮し、適時それを将師に具申または提出する。提出する場合、誰が考えても一つの策案しかない場合はそれでいいが、ものごとには多くの場合、一つなり二つなりの対案がある。その場合は二つなり三つなりの策案の利害得失を整理して提出し、将帥の判断と選択の参考に資することが大事である。

 第三は、将帥が決断を下した場合、それが速やかに、かつスムーズに実行に移されるよう、幕僚は活動しなければならない」

 彼は陸大で教わった参謀の要諦をそのまま伊藤忠の業務本部に移植した。工夫した点は陸軍とは違い、業務本部には現場で業績を上げた者だけを兼務者としてチームに加えたことだろう。頭でっかちの生え抜きエリートを集めたのではない。