数字を叩いてユーザーの想定をしていけば、
不動産というゲームに参加できる

上田 あとは富山県なんか特にそうですけど、地方であればあるほど、質がいいものにはきちんと対価を支払いたいという地元名士のかたや、社長さんがいらっしゃるのではと感じています。新幹線の開通もあり、都市圏からも地元ならではの体験をしたいと、地方に足を伸ばす方々も増えていると感じます。

木下 その客層、まさに地方にありますよね。

上田 なので、やっぱり見ていて思うのは、そういった高価格帯のものでしっかりしたものが提供できるところは、強いなと思いますね。

木下 そこはいい市場ですよね。それがプライシングとして成立するというところはやっぱり同じ地方で括っちゃうというのは、ちょっと違うかなと思います。さっきの上天草もある程度のプライシングの高い宿とかを地元の経営者がちゃんと投資して、ホテルとかも建ってきていますし、さきほどのイルカウォッチングとかのアクティビティもちゃんと投資した格好いい船で連れて行ってくれて、その代わり値段もちゃんと取る。だから変な客が来ないんです。変な客が来ないんで、従業員の定着率もすごく高い。だからサービスがよりよくなるという好循環が回っているので、サービスを拡張することも十分できるということです。

上田 そうですね。よい人手をいかに好循環のまちづくりの中で確保していくか、これに尽きますね。

木下 今地方はあまり人手もないので、安くしてたくさんの人を招くというよりは、ちゃんとしたプライシングで、ちゃんと地元の人たちが安定して生活してやれるようなものをどう作るか。それが実は不動産として、数字をちゃんと叩いて、これだったらできるよねってしないと、下手なものを建てると、不動産の維持にお金がいっぱいまかれて、サービス側に来ないとか。だからそこら辺りのバランスを計算できない人がやると、めちゃめちゃになってしまいます。

上田 まったくその通りですね。

木下 上田さんの『ハーバード式不動産投資術』では徹底してケースを元に書かれていますけど、本当にそういう計算をしっかり組み立てれば、このレベルだったらできるよねというポイントが出てくるはずなんですよね。そこの作業を怠っているがゆえに、地方での開発がうまくいってないんじゃないかなと。一瞬うまくいったように見えるけど、すぐにダメになっちゃうというのは、やっぱり動的に街が変わるという変化に対しても、数字を当てていないというのが現実なんじゃないかと思います。

上田 読者の方からは、「これって東京の一等地じゃないと成立しないモデルなんじゃないの?」と言われることも多いです。でも、地方の優良企業に勤めているサラリーマンの方とか、公務員の方、地方で土地を持っている方、商店街でボロ物件を持っている方でも、ちゃんと数字を叩いてユーザーの想定をしていけば、不動産というメカニズムを活用した「まちづくり」に参加できるということが、今回の対談でよくわかってもらえたと思います。今回の対談は、そういう方のすごい力になるんじゃないかなと思います。

木下 本当にそうですね。東北で知り合いの方が高スペックなライフスタイル型の賃貸住宅を展開しているんですけど、もう完成前にほぼ全部満室になるそうです。それって住み方を提案されいたり、断熱性能とかも高く設計されているんです。永続的にその地域に住むかどうかはよくわからないけど、とりあえず5年ぐらいは賃貸で住んでみようかなという市場が地方にもあるんですね。安普請のヤバい賃貸住宅か、もしくは自分で家を建てるか以外にも、そういうすき間市場があるというのも、ちゃんと数字を叩いていくと見えてくるんです。そうやって実績を上げていくと、金融機関もどんどんサポートしてくれるようになるので案件が回せていけるようになる。人が減って家が余っているような場所でも、需要のすき間というのは存在をしていて、ミクロで見ればやり方なんていくらでもある。そこに東京か地方かっていうちがいは、あまり関係ないですね。

上田 どうもありがとうございます。非常に刺激的ないいメッセージになったと思います。

木下 こちらこそ、どうもありがとうございました。