バラモン教が都市を追われた理由

 「私は仏教徒です。動物を殺すことは、私たちの教えでは禁じられています。牛はお渡しできません。よその畑に行ってください」

 こう反論されたらバラモンも、引き下がらざるをえません。

 正論には勝てません。

 バラモンがケンカを吹っかけても、お坊さんが腕力でブルジョワジーに勝てるはずもありません。

 こうして、インドの大都市部ではブルジョワジーの多くが、仏教徒やジャイナ教の信者になりました。

 その結果、いわば、都市を追われた形になったバラモン教は地方へ行きます。

 都市に信者がいなくなったからです。

 しかし、この苦い経験からバラモン教も学びました。

 インドの土俗的な宗教観を取り入れて、わかりやすく大衆的になっていきます。

 そしてヒンドゥー教と呼ばれる、インドの大宗教に発展していくのです。

 現代のインドでは牛が聖獣となっていますが、その契機となったのが、以上のような出来事でした。

 「牛を殺すな」という声があまりに強かったので、ヒンドゥー教が発展してからも、牛を食べなくなり、いつの間にか牛が聖獣になっていた、という説が有力です。

 この本では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を出没年つき系図で紹介しました。

 僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。

(本原稿は、13万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)