報道番組『Nスタ』平日版の総合司会として活躍、いまや“TBSの夕方の顔”ともいえる井上貴博アナウンサー。自身初の冠ラジオ番組井上貴博 土曜日の「あ」が13時からスタート、さらに5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する、いま最も勢いに乗っているアナウンサーの一人である。
一方、多くの人の不安や悩みを吹き飛ばす神ツイート”の連投で29万フォロワー突破。初の小説
『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』は増刷を重ね、幅広い層の読者から支持を集めている精神科医Tomy氏。
井上アナの著書に推薦文を寄せたことをきっかけに、今回の対談が実現。ラジオというメディアの魅力と心に与える影響、新ラジオ番組のテーマである「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」のあり方、仕事で結果を出すためのスタンスなどについて語り合った内容を3回にわたってお届けする。

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】物事がうまくいくたった1つの“意外な考え方”

揉まれるからこそ次のステージが見えてくる

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】物事がうまくいくたった1つの“意外な考え方”井上貴博アナ初の著作『伝わるチカラ』

【前回】からの続き

Tomy:エンタテインメント性を出すとか知的な要素を出すとか、いろいろな方向性が考えられる中で、井上さんがラジオで一番やりたいことって何ですか。

井上貴博(以下、井上):テレビでは「優等生コメントをしないこと」と「その場のアクシデントを楽しむ、面白がること」を軸にしゃべっていますが、ラジオではテレビで出せない自分の本音をどんどん出せたらと考えています。

テレビでは笑顔でいることが多いですが、もちろん私にも黒い部分はありますし、鬱屈した思いも抱えています。じっくり話をすると「井上さんってそういう人なんですね」って言っていただくことも多いので、テレビでは見せていない自分を、ラジオではもっとフランクに出したていきたいです。

Tomy:人によっては嫌われるかもしれないのを覚悟で、ということですね。

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた氏の不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんた氏が降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から『Nスタ』平日版の総合司会。自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート、5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する。2022年4月、第30回橋田賞受賞。

井上:そうなんです。テレビの限られた尺で伝えるのが難しい話も、ラジオだったらできるかもしれない。正面から自分の思いを発信したらどういう反応になるのか、実験したいと思っています。

あとは、局アナ、社員として、内側からメディアを変えていきたいという思いも強いので、リスナーのみなさんと一緒に“変革の過程”を歩んでいきたいとも思っています。それはタレントさんやフリーランスの方にはなかなかできない社員ならではのことですから。

テレビとラジオの両方を放送する「ラテ兼営局」とはいえ、テレビとラジオが別会社になっている内情もあるので、その現場をつなげるような役割にもチャレンジしてみたいですし、組織の中で組織人が“もがいてる”さまもお伝えできればと思います。

Tomy:実験もしつつ、もがきつつ、面白いラジオにしていくって、相当な力量が要るんでしょうね。

井上:その部分はめちゃくちゃ怖いです。でもラテ兼営のTBSに入ったからには、逃げたくないというのはありますね。偉大な諸先輩方を見ていても、頂点を取ろうとする人は、ラジオで揉まれて、力をつけていった部分があるので、先輩たちに追いつき追い抜こうと思ったら、ラジオで揉まれながら頑張らなければならないんです。

Tomy:応援しています。だだし、つらいときは自分に「逃げ道」をつくっておきましょうね。

諦めるとうまくいく

井上:今つい「頑張る」という言葉を使っちゃったんですけど、最近「頑張る」という言葉を使うのが嫌だなと思って、友人や先輩、仕事仲間にLINEやメールを送るときに「頑張る」って言葉を意識的にやめました。

気張って結果が出るなら気張ればいいですけど、そんな甘い世界でもないですし、肩に力が入って気張りがちな性分であるのも自分自身で分かっているので、気張ってもしょうがないな、と。なるようになるし、駄目なら駄目だしという開き直りもあります。

Tomy:完全に個人的な体験ですけど、自分の著書を売りたいと思って肩肘張って頑張ったときって、うまくいかないです。

長くラジオを続けている人も、たいていひょうひょうとしているイメージじゃないですか。

井上:そんなもんですよね。気張ってもしょうがないという思いもあるし、そもそも「いつ会社を辞めてもいい」という覚悟は、ずっと持ち続けているんですよ。

アナウンサーの仕事が全てじゃないし、天職と思ったこともない。世の中には仕事がごまんとあるから「やるだけやって駄目だったら、会社もアナウンサーもやめればいい」という覚悟と開き直りは、常に頭のどこかにあります。

Tomy:不思議なもので、そういうふうにどこか力が抜けているとうまくいくんですよね。おそらく頑張ったり評価を気にしたりすると、そこにエネルギーが割かれてしまって、その分、パフォーマンスが削られるんじゃないでしょうか。

ただ、人間って、やりたいことを目の前にして力を抜くのが、けっこう難しいので、諦めが大事だと思うんです。

アテクシのTwitterで一番バズったのが、「ストレスを減らすたった一つの方法。それは『手放す』こと。(中略)最後にどうしても手放せないものが残る。これが生きる理由よ。」というツイートです。

それから「手放す」ということを言い続けてきたんですけど、最近はもう一歩進めて、「手放す=諦める」と思うようになりました。「うまくいかなくてもいいや」と諦めると、逆にうまくいく感じがします。

井上:諦めるってハードル高いですけど、100諦めて全てを放棄するわけでもないんですよね?

Tomy:放棄はしないです。リラックスして臨むために、好きだから、楽しいからこそ諦めるんです。評価とか結果はあとからついてくるものですから。先に評価とか結果に目を向けちゃうと、肩肘張っている感じが、受け取り側にも伝わるんですよね。

井上:評価は自分ではどうしようもないですからね。僕は『朝ズバッ!』という番組に関わっていた20代のとき、肩肘張って、自分の能力が100だとすると、150とか200を出そうとがむしゃらにやってました。ただ、がむしゃらにやっていたからこそ、今のTomy先生のお話が分かるんです。

あのがむしゃらな時期がなかったら、力を抜いた感覚も分からない。力がないながらもがむしゃらにやっていた、あのときの自分にありがとうという思いもあります。