報道番組『Nスタ』平日版の総合司会として活躍、いまや“TBSの夕方の顔”ともいえる井上貴博アナウンサー。自身初の冠ラジオ番組井上貴博 土曜日の「あ」が13時からスタート、さらに5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する、いま最も勢いに乗っているアナウンサーの一人である。
一方、多くの人の不安や悩みを吹き飛ばす神ツイート”の連投で29万フォロワー突破。初の小説
『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』は増刷を重ね、幅広い層の読者から支持を集めている精神科医Tomy氏。
井上アナの著書に推薦文を寄せたことをきっかけに、今回の対談が実現。ラジオというメディアの魅力と心に与える影響、新ラジオ番組のテーマである「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」のあり方、仕事で結果を出すためのスタンスなどについて語り合った内容を3回にわたってお届けする。

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】<br />精神科医がうつ病になってわかった<br />自己肯定感を高めるたった1つの方法

ありのままの自分を肯定するには?

【井上貴博TBSアナウンサー×精神科医Tomy】<br />精神科医がうつ病になってわかった<br />自己肯定感を高めるたった1つの方法井上貴博アナ初の著作『伝わるチカラ』

【前回】からの続き

Tomy:井上さんのお話からは、負けず嫌いの熱さを感じますし、新しいことにチャレンジする意欲にあふれていますね。

アテクシ自身は真逆。つまり負けず嫌いではなく、父親から「もっと悔しがりなさい」と言われながら育ったくらいです。井上さんは自分にないものを持っていて、うらやましくも感じます。

アテクシは、どこまでも自堕落になろうと思えばなれるんですよ。それを自覚しているから、あまり新しいことに挑戦したがらない面も自覚しています(笑)。最近になって小説の執筆とか、新しいオファーが舞い込むようになったんですけど、ただ楽しいからやっているだけで、「挑戦する」という意識ではないんです。

井上:実は僕も、もともとは自堕落なんです。ただ、自堕落な自分がいるからこそ、自分を律するために、常に挑戦して自分を追い込んでいるところがあります。

Tomy先生の著書を拝読して興味深かったのは、「楽しむ」というスタンスが前面に出ているところです。僕自身は逆で、「仕事を楽しむなんて口が裂けても言うべきじゃない」とか、「職人たるもの、お客さんに楽しんでもらうことが第一だから、血眼になって自分を追い込むべき」という考えを持って仕事に臨んできました。

「どんな状況でも幸せだと思えない人は、一生幸せなんてつかめない」といった内容を書かれているのを読んで、とても新鮮に感じたんです。

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー。
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた氏の不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんた氏が降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から『Nスタ』平日版の総合司会。自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート、5月17日には初の著書『伝わるチカラ』を刊行する。2022年4月、第30回橋田賞受賞。

Tomy:ありのままの自分を肯定するという自己肯定感にからめて言うと、自己肯定感を得たいと思っている人は、それを得ようとがむしゃらに頑張るイメージがあります。それに対して最初からありのままの自分を肯定できている人は、肯定の意味すらわからず、のほほんとしていても平気みたいなところがあります。

井上:それは、絶対的に満たされているからでしょうか。

Tomy:そうなんです。ただし、井上さんのように、放っておくと自堕落になるから、それじゃいけないと思って頑張る人もいる。どっちがいい・悪いという話ではなく、そもそも両者は本質的に違うものなので、一生懸命な自分を、自分らしさとして受け入れていくのがいいと思うんです。

「ありのまま」と「がむしゃら」を使い分ける

井上:「あなたはあなたのままでいい」「そのまま無理をしなくてもいい」というのは、その通りだと思うのですが、がむしゃらな人がいてもいいと思うんです。

「オンリーワンでいい」というのは、いい言葉だなと思う一方で、「ナンバーワンを目指した上でオンリーワンに落ち着くのはいいけど、最初からオンリーワンでいいや、というのはちょっと違う」と考えている自分もいます。

もう1人の自分がいるとしたら、その自分から「ナンバーワンを目指せ、オンリーワンに逃げるな」と言われている感じ。

もちろん、そういうメッセージをそのままラジオで伝えようとは思わないですけど、「ありのままでいい」という以外の発信も模索したいな、となんとなく思っているんです。

Tomy:井上さんにとってのナンバーワンって、一体どんなことなんですか?

井上:分からないです。そういうランキングも、存在しないですし……。でも、アナウンサーとしての商品価値をもっと高めなければと思っています。

Tomy:すごく応援しておりますが、けっして無茶はしないでほしいです。アテクシは精神科医で、基本的には弱ってしまった人向けにメッセージを発しているので、どうしても「がむしゃらにやろう」とは言い切れないところがあります。

がむしゃらもいいと思うんですが、長い目で見たときに、どうしようもないことが積み重なる時期もあります。そんな余力のない状況の人が、あるときポキッと心が折れてしまうことがあるのを散々見てきたので、「今はありのままでいい時期なんだ」と思えることも大事かなと思っています。

井上:「ありのままでいい」という選択肢を持っておくということですね。

Tomy:そうそう。考え方を変えるにはエネルギーがいるけれど、どうしようもないことが重なるときは心に余裕がない。だから、心に余裕があるときに「ありのままでもいいときがある」という考え方を持っておくほうがいい。そう思うんです。

井上: 勉強になります。頭では「他人や環境や過去は変えられない」ってわかっているんだけど、そっちにパワーを持っていかれて、本来変えられるはずの自分の考えが一番変えられないことって、ありますから。

Tomy:がむしゃらで行けるときにはがむしゃらで行くけれど、「いざというときは柔軟に対応できるようにしておこう」という感覚を持っておくことって、すごく大事ですよ。

井上さんのラジオ番組は「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」をテーマにされていますが、長い人生の中では、何が起きるかわからないし、年もとっていくわけです。「自分は常に変わっていく」という認識を持って、やり方を変えながら一番満たされている状態をつくることが、ウェルビーイングにつながっていくと思います。

井上:ウェルビーイングを番組の軸に掲げていますけど、幸せとかウェルビーイングって見えるものではないし、押しつけられるものでもないですよね。だから、都合のいい言葉でもあり、「何か言っているようで、何も言ってない」ってことにもなりかねません。

僕のラジオ番組の情報がプレスリリースされたとき、ありがたいことに講談師の神田伯山さんが、TBSラジオの番組『問わず語りの神田伯山』で、「何をしたい番組なのか、全く分かんないでしょ」とさっそく番組タイトルをイジってくださった(笑)。愛のあるイジりで、本当にありがたかったです。ある意味、狙い通りと言えば狙い通りで、図星と言えば図星(笑)。

ラジオをやっていく上で、番組のテーマ「ウェルビーイング」をどう具現化してお話ししていくのかは、走りながら見つけていこうと考えています。