アイデンティティを崩壊させる。
星:視野を広く保ち、好奇心を持つために、他にもアドバイスはありますか。
杉原:アイデンティティを一回崩壊させることでしょうか。
もちろん崩壊させない方が幸せだし、家族とか仲間として見ていても、傷つくところを見るのはすごくつらいと思うんですが。
星:なぜ、アイデンティティの崩壊を経験したほうがよいのでしょうか。
杉原:現代って、自分の立ち位置を再確認せざるをえないような時代だと思うんですよ。YouTubeや様々なSNSによって、日本だけではなく世界各国のものが可視化され、あたかもそれらを自分が経験したように錯覚してしまう。
そうなってくると、今まで積み上げてきたアイデンティティって何だったんだろうってことになる。
その点、一度アイデンティティの崩壊を経験している人間は強いと思います。
星:どういうことでしょうか。
杉原:アイデンティティって、パーティゲームでよく使う「ジェンガ」のように何度も積み直し可能というか、組合せ次第で、自分自身の真っ白なキャンバスに何通りもの違う絵が描ける、僕はそう思っています。
星:一回壊れて、また築き上げていくことで、フレキシブルに考えられるようになるんですね。
杉原:はい。僕は15歳のときにイギリスに留学して、そう思いましたね。
何もしゃべれなかったんですよ。「How old are you?」って聞かれて、「I’m fine, thank you. And you?」って答えてしまうような人間が全寮制の高校に入っているわけです(笑)。
それまでの人生で築き上げてきたアイデンティティを組み立て直さざるをえませんでした。星さんも何かしらそういう経験があったんじゃないですか。
星:はい。アイデンティティ・クライシスの連続ですよ、僕の人生。
杉原:やっぱり。人生、「七転び八起き」ですよね。
不屈の精神が大事ですし、トライ・アンド・エラーが許される環境がなければならないですよね。その点でアメリカはいいなと思います。
星:日本の教育は、正解探しのような側面がありますが、アメリカの場合、正解を探しにいくというよりも、「人生をつくり上げていく」という感じがします。
杉原:それ、わかります。
星:それと、僕がアメリカにきて驚いたのは、アメリカの学生がとにかくよくしゃべることです。
知識量や賢さは、東大生のほうが勝るかもしれませんが、積極性では断然アメリカの学生です。
ときには、「そんなバカみたいなこと言うなよ」と思うこともあるんですが、でもそのバカみたいなアイデアが、ディスカッションを重ねた結果、最後にはすばらしいアイデアになっていたりするんです。
杉原:RDSの開発もそうですよ。みんなでアイデアを出して、どんなにバカみたいなアイデアでも否定しないで、ビルドアップしていきます。実際、バカみたいなアイデアからスタートした企画も多いです。
あとは、まず口に出すべきですよね。そして、たとえ口に出せなくても、絵でも文章でもあらゆる表現方法を用いて自己PRをするべきではないでしょうか。
寡黙をよしとする文化は、難しい状況をつくってしまう可能性が高いと思います。