左利きは「計画を立てる」
「優先順位を決める」ことでうまくいく

──すごい可能性を秘めているのが、左利きなのですね。でも、そんな左利きに弱点はないのでしょうか。

加藤:実は、私もそうなのですが、左利きは優柔不断なところがあります。

 なぜかというと、左利きの「脳の使い方」に原因があります。右利きは情報を主に言葉でインプットしますが、左利きは「目でとらえた情報をイメージで保存」します。

 右利きが主に使用する左脳は、情報を時系列やカテゴリーごとにきちっと整理する「直列思考」の脳です。言葉や数字を用いた、論理的で分析的な思考をします。一方で、左利きが常に刺激する右脳は、さまざまな情報が同時にプカプカと浮かぶ「並列思考」の脳だと言えます。

 情報を言葉として取り出すとき、右利きであれば、直接、言葉が並んでいる左脳の倉庫にアクセスすることができますが、左利きは、一度、イメージがたくさん並ぶ、右脳の倉庫を通ってからでないと、左脳にたどり着けません。つまり、言葉で言いたいことをまとめて発するまでに使う脳のルートが、右利きよりほんの少し遠回りなのです。

 伝えたいイメージがあっても言葉がなかなか出てこないとか、言葉にすればすむ話を、延々と頭の中で考えて口に出せないということが左利きにはよくあるはずです。

 そうして、言葉に置き換えて発するのに時間がかかるために、なかなか物事を決められなくなってしまうのです。

──なるほど。では、優柔不断を改善するにはどうしたらいいのでしょう。

加藤すぐに決められるような状況をつくることがポイントです。日々の行動や仕事の進捗なども、できるだけ事前に計画を立てるようにしましょう。

 この時間までは、これをやる。次の1時間はこれをやる。などと決めておき、スケジュールに沿って行動します。

 また、友人と映画を観る約束をしたとしたら、前もって「これを観る」と考えておく。もし相手が「アクションがいい」と言ったらこっちに変更しよう。または、映画の前に「お腹が空いた」と言われたら、先にこのあたりで食事をするのもいいな。などと、大まかでいいので決めておくと迷うことが減るでしょう。

 要するに、左利きは並列思考のために、どの情報のスイッチを入れたらよいかが決められず、優柔不断になるので、スイッチを押すタイミングを自分で決めることが大事なのです。

 私も、まだ若い頃は、原稿を依頼されてもギリギリまでまとまらない、学会の準備でさえ、当日まで手をつけないなど、グズグズする傾向がありました。

 でも、近年は、あらかじめ「●日までにこれをやる」などと決めて行うようにしてから、ずいぶんと改善されました。ですから、自分の行動スイッチを押すタイミングを決めましょう。

──ほかに左利きが「これを気をつければ、マルチタレントにも職人肌にもなれる」という点はありますか。

加藤:左利きは、なんでも器用にこなせるからこそ、なんでもやろうとして何が重要だったのか忘れてしまうこともよくあります。

 物事の優先順位を決めて、重要なことにしっかり時間をかけて取り組むこと。

 どうしたらいいかわからなくなってしまったら、計画性や実行力のある人のアドバイスを仰ぐのもいいでしょう。

 私も以前、やりたいことにあれこれ手を出して、どれもまとまらなかったとき、当時の上司に「一つのことにじっくり取り組んでみろ」と言われ、研究が驚くほど進んだ経験があります。

「左利きだからできる」と自信を持ってほしい

──左利きである、加藤先生のご経験から導き出された、知られざる左利きの特徴ですね。

加藤:私は、右利き社会で自信を失いやすい左利きに、脳科学的な左利きの特性を伝えて「左利きは決して劣っているわけではない」と伝えたい。

 左利きの多くが、日常的に活性化している右脳は、イメージで記憶を保存できるほど、キャパシティが大きい。

 皆さんがお使いの、パソコンやスマホにテキスト情報を保存しても、使用する容量はほんのわずかでしょう。でも、画像や動画は、テキストに比べると膨大な容量を必要とします。

 それほどのデータをやすやすと保存できる右脳は、いくつものタスクを同時にこなすことくらい簡単にできるほどの潜在能力を秘めています。

 それなのに、右利き社会に合わせて自分を抑えたり、周囲と違うことで自身を低く見積もって、能力を発揮できない左利きが少なくない。

 脳科学的な見地から左利きの特性を理解して、「左利きだから、マルチな能力を発揮できるんだ」と自信を持ってほしいと考えています。

「左利きが器用」ってホント? 右利きと何が違う? 脳科学で解説!『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com