いま話題の『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
著者の脳内科医・加藤俊徳氏によると、左利きと右利きでは「脳の仕組み」が違うといいます。それはいったい、どんな違いなのか……。10人に1人といわれる「左利きの疑問」を解き明かすため、加藤氏にお話を伺いました。(構成・塩尻朋子)

「左利きが器用」ってホント? 右利きと何が違う? 脳科学で解説!Photo: Adobe Stock

左利きは「マルチタレント」でありながら
「職人肌」にもなれる

──「左利きは器用」だとよく言われています。実際に身近な左利きの人は、左利きだとわかった途端に、まわりから「器用なんでしょう?」と聞かれたそうです。脳科学的には、左利きは「器用」だと言えるのでしょうか。

加藤俊徳先生(以下、加藤):「器用」というのが、“細かい作業が上手”という意味でしたら、必ずしも当てはまらないかもしれません。むしろ多くのモノは右利き仕様でつくられていますから、それを使って細かい作業をするのは、苦労することが多いと思います。

 もしかしたら、9割の右利きの人からすると、自分がうまく使えない左手を操っている姿から「器用に違いない」と思うのかもしれませんね。

 しかし、もし「器用」が、“要領よく、たくさんの物事を処理できる”という意味であれば、左利きは「器用」だと言えるでしょう。

──では、なぜ左利きは、効率よく多くのことを、同時に進行できるのでしょうか。

加藤:「器用」は、生活の中での工夫が重なることで生み出されます。

 脳の運動系脳番地には、「どうやって手を動かしたら、ハサミで布が切れるか」のように、動作や行動をあらかじめどうするか考える、プランニングエリアがあります。

 あらゆる物事が「右手で行われるのが当然」という社会では、ドアの開け閉めから始まり、電車の改札を通るとき、自動販売機でドリンクを買うとき、パソコンのマウスを使うとき、料理をするとき、水道の蛇口を開け閉めするときなど、日常生活のあらゆる局面で、どうやったらうまくやっていけるのかを、左利きは四六時中、プランニングしています。

 それは、幼い頃から続く日常であり、無意識で工夫している左利きがほとんどです。

 そうして、運動系の脳番地を活性化する生活を日々送っていると、いろいろなことを同時に行うことができるようになります。

──では、左利きは「職人肌」というよりは、マルチタレントだと言えるのでしょうか。

加藤:そうですね、マルチタレントでありながら、自分の得意をとことん極めれば「職人肌」にもなれるのが左利きです。

 どちらのタイプになるかは、本人の志向次第でしょう。

 たとえば、アドリブ上手な人は、「マルチタレント」向きです。アドリブとは、相手や周りの状況次第で、自分に表現、アウトプットを適宜変更できる能力だといえます。このようなアドリブ能力は、分野や業種の違いを乗り越えて、才能を発揮できる力があります。

 一方、自分の感覚へのこだわりや、他人に合わせることが窮屈だと感じている人は、「職人肌」向きです。自分の思考や感性をどんどん深めたり、繋げることを継続することができれば、すなわち、専門家になることができます。