歴史思考がないことによる
デメリットが多過ぎる

どうして、教養がない人ほど悩み込んでしまうのかPhoto:竹井俊晴

――「歴史思考があれば強くなれる」とは具体的にどういうことでしょう。

深井 歴史上の人がどんな思想で、どういう理念を掲げたか知っている人と知らない人とでは、その理念を掲げるに至った背景や意味が異なります。自分一人の短い人生経験や、ちょっと調べただけの知識で物事を決める人と、過去の偉人の思想を踏まえて自分の考えを伝えられる人とでは、比較にならないほど思考に深みが出ます。

 もう一つ痛感したのは、会議でも打ち合わせでもディスコミュニケーションが日常的にしょっちゅう起こっているということです。相手が何を言いたいのかちゃんと理解するには、その人の立場や背景、考え方をふまえる必要があります。教養がある人はそこが強いのですが、教養がないとバイアスがかかりやすく、バイアスを持って相手の意見を聞いてしまうために、相手も理解されている気がしない。それももったいないなといつも思っていました。

――人類はあらゆる偉人の叡智(えいち)の積み重ねで進化してきました。その歴史を知らずに自分の考えだけで物事を判断するのは、確かにもったいないですね。

深井 海外旅行に例えると分かりやすいです。日本から一度も出たことがない人が、海外に出て初めて自分が日本人だと自覚するし、外から日本を見ることで日本がどういう国なのかを理解できるようになります。日本から一度も出たことのないままだと、それは理解できないでしょう。

 同じように、歴史を知らないということは、今、自分がどういう立ち位置にいるのか分からずに生きているようなものです。

 逆に、世界の歴史を知っている人は、ヨーロッパ、アメリカ、中国、インドの歴史をふまえた上で、日本の歴史や日本人の特徴を理解しています。日本と他国の違いやそれぞれのメリット、デメリットを分かった上でコミュニケーションができる。グローバル企業との競争が加速していくと、その差が事業にダイレクトに影響を与えるようになります。

 文化の違いだけでなく、ジェネレーションギャップも「歴史思考」で解決できます。

 例えば50代の人が「最近の20代は何を考えているのか分からない」と思っている場合。中高年の「今の若い人は……」という愚痴は、平安時代の文献にも残っています。その後もずっと同じことを繰り返し言い続けてきた歴史があるわけですから、昔の「若い人」扱いされた人たちの考えを知れば、同じことを言う必要はなくなるはずです。

「歴史思考」は、歴史の知識を自分事として理解した上で、何かと向き合ったときに役立つものです。その姿勢こそが「教養の正体」なんです。歴史の知識をふまえて、自分は世界をどう見るのか? 目の前の問題とどう対峙するのか? その姿勢が、悩み多き今の社会に求められています。
(2022年4月1日公開予定の記事に続く)

どうして、教養がない人ほど悩み込んでしまうのか深井龍之介(ふかい・りゅうのすけ)
株式会社COTEN代表取締役CEO
島根県出雲市出身。大学卒業後、大手電機メーカーや複数のベンチャー企業の取締役や社外取締役などを経て、2016年に株式会社COTENを設立。「メタ認知を高めるきっかけを提供する」をミッションに掲げ、3500年分の世界史情報を体系的に整理。数百冊の本を読んで初めて分かるような社会や人間の傾向・行動パターンを、誰もが抽出可能にする「世界史データベース」を開発中。COTENの広報活動として「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を配信。2019年には、「JAPAN PODCAST AWARDS2019」で大賞とSpotify賞をダブル受賞。Apple Podcastランキング1位を獲得。
どうして、教養がない人ほど悩み込んでしまうのか