準備段階が「2回」あるのが左利き

──日常の動作だけでなく、仕事などでも左利きは「右利きマニュアル」を応用しているのでしょうか。

加藤:「左利きは、基礎を覚えるのに時間はかかるが、あるとき、突然できるようになり、そこから応用してどんどん発展させていく」と言われることがあります。

 日常の動作にしても、仕事にしても、左利きが自分のものにするためには、実は、2段階の準備が必要です。そのため、基礎を覚えるのに時間がかかっているように見えます。

 1段階目は、右利きがつくったテンプレートをバラバラにして、さまざまな方向から見て理解する段階。なぜなら、今ある「右利きの脳で作られたマニュアル」をそのまま実践しても、左利きにとってはうまく行かないことが多いからです。

 2段階目は、バラバラにしたパーツを組み替えたりしながら、自分なりのやり方を構築する段階です。つまり、「左利きの脳でやりやすいマニュアル」です。

 実は、ここが左利きにとっては大きな壁となります。このステップで試行錯誤して、独自のやり方を生み出すことができれば大きく飛躍します。

──右利きは、準備段階が少ないのですか?

加藤:そうですね。右利きの場合、今あるやり方に沿って実践すれば、すぐにある程度はうまくいくので、準備段階は少ないと言えるでしょう。

 ただ、右利きにも、壁は少し先で訪れます。作業や仕事をそつなくこなすことはできても、どうしてももっと発展させることができない。そうなったときが、右利きの「応用力」の開発の時期です。右利きの人は、行動のスイッチを入れることがスムースでも、その後に計画の変更が起った時に、アイデアが浮かばなかったり、躊躇する時間が長くなったりします。しかし、この時期が、一番右利きの人の応用力開発のチャンスです。

 わたしも時々、していることですが、自分の考えや意見を真反対に否定してみることです。私はこれを、「脳内ディベイト」と言っています。「脳内ディベイト」をしてみることで、自分では気がつかなかった状況や見方を発見することができます。

応用力の基礎を固めるにはどうする?

──左利きは、準備段階ですでに壁に突き当たるとのことですが、その壁を壊すにはどうしたらいいのでしょう。

加藤あらゆることで、いつも「自分だったらどうする?」と考えることです。

 たとえば、コンビニに飲み物を買いに行ったとき、「なぜ、ここに陳列されているのだろう、自分だったらどうするか」と考えてみる。

 会議の議事録がまわってきたら、「自分だったら、これをどうやってまとめるだろう」と考える。

 本を読んだら、「この人は、マーケティングについて、こんなやり方がいいと言っているけど、自分だったらどうするだろう」と、「自分ならこうする」という答えが出るまで、3分でいいので考えてみます。

 すると、必ず自分なりの意見が生まれることになります。それは、今ある状況に、もう一つ、選択肢を増やすことになる。選択肢が増えれば、応用力を磨く基礎を築くことにつながります。

──これは、左利きだけでなく、右利きがやっても効果がありますよね。

加藤:そうですね。左利きだけでなく右利きも、そして、壁にぶつかったときに限らず、日頃から心がけていると、応用する力が身についてきます。

 また、常に自分に意見を問いかけるだけでなく、「今ある、選択肢に自分の意見をプラスしたらどうだろう」と、考えてみるのもいいでしょう。

 そうすることで、発想がどんどん広がっていきます。

左利きと右利きの「応用力」決定的な差『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com