都心でもしっかり利益が確保できる3つの理由

驚くほど家賃負担率が低く、開店当初から既存店並みの利益が確保できるのは以下の3つ理由だ。

すべてが『ワークマン式「しない経営」』で書いた3つの「しない」の成果だ。

●その1)ノルマがない
都心3店に出店できたのは当社の店舗開発部の粘り強い努力のおかげだ。

都心で家賃負担率4%というと、商業ビルやモールの運営会社は本気にしない。

冗談だと思うはずだ。

地価の高さでミッション・インポッシブルなのだ。

ワークマンは「しない経営」で社員にストレスをかけないため、開発担当者にはノルマがない。

ノルマがないがゆえに、担当者は自分で不可能を実現したいという秘めた闘志を抱いていた。

運営会社に足しげく通った。

運営会社には家賃の低さを補う当社の出店メリットを強調し続けた。

ついに、説得ができた。

●その2)時間の制限がない
銀座に進出すると決めても、ワークマンには期限の目標がない。

時間をかけて、できるまでやるだけだ。

普通の会社は不必要に短い時間を設定している。

それにマイルストーンまで決めて、細かく管理する。

無理な目標は頭のいい社員ほど早くあきらめる。

できると思って仕事をする人と、あきらめた人との結果の差は大きい。

ワークマンは時間の制限をなくし、「時間を味方」にしている。

時間の制限がないと圧迫感がなく、自分のペースで仕事ができるため、実際は早くできることが多い。

家賃は売上の4%までという出店の条件を決めて、チャンスが来るまでじっと待った。

コロナ禍でインバウンド客が減ったことも家賃的には有利に働いた。

結局6年間かかったが、私の感覚としては難易度の割には早く出店できたと思っている。

●その3)価値を生まない仕事はしない
妥協して家賃の超過分を広告宣伝費で補てんして出店することもできたが、それはワークマンの凋落のはじまりだと思っている。

ワークマンの一番の強みは経営の軸がブレないことだ。

銀座店でも安易に原則を曲げるのは堕落だと思う。

経営を信頼して自ら走っている社員への裏切りにもなる。

地価が安い地方店と同じ家賃負担率の原則を、銀座、なんば、池袋でも貫き通すことこそがワークマンの標準化経営の原点なのだ。

経営の最終ゴールとは?

実は、私も都心店は大きな宣伝効果があるが、さすがに途中で妥協したくなったことも何回かあった。

もし都心店の赤字を補てんをしても、その金額はワークマンの販促費全体と比べると微々たるものである。広告塔効果のほうがはるかに大きい。

ただ、経営が原則を踏み外すことは、社員の士気を損なう。

ワークマンの経営の最終ゴールはニッチな業界でダントツの1位になることではなく、「100年間の競争優位」だ。

経営の軸がブレたら100年どころでなく、すぐに自滅する。

社員の意欲を信じてじっと朗報を待っていた。