ROEが「当たり前」になったときに
「株主重視の経営」が到来する

 こうした観点から、筆者は「ROE重視の経営」という言葉を企業が大々的に語らなくなったときこそ、「真の株主重視の経営の到来」ととらえている。子どもが「ご飯を食べたら必ず歯を磨く」と言わなくても自発的にできるようになったときに、一歩成長したと親が実感できることとなんら変わらない。

 投資家が低ROEの企業に対してその改善を求めるのは問題ない。しかし企業みずからが「ROE重視の経営」といった言葉を株主に対して掲げることには、いつの日か決別する算段を基にして、ROE重視の経営を目標とすべきであろう。

 それでは「真の株主重視の経営の到来」が訪れたとき、企業はROEではなく、どういった経営指標を語るのだろうか。それは、『経営指標大全』で紹介しているEV-KPIペンタゴンモデルの5つのポイント(成長性、収益力、キャッシュフロー、投資収益率、資本政策)に根差したバランスのとれたものでなければならない。

 3Mは前者4つに関して、役員報酬制度における具体的な経営指標として、①相対的オーガニック・ボリューム・グロース、②EPS成長率、③FCFコンバージョン、④ROICの4つを採用していた。これら4つは非常にバランスの取れた黄金のKPIである。本書で経営指標としての意義を参照してほしい。

参考文献
*1 YouTube, The Importance Of Return On Equity In Investing - Warren Buffett. https://www.youtube.com/watch?v=P55HPJAH_v0&t=4s
*2 平井一夫『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』日本経済新聞出版、2021年
*3 Institutional Shareholder Services Inc.「2021年版 日本向け議決権行使助言基準」2021年
*4 『山を動かす』研究会編『ROE最貧国日本を変える』日本経済新聞出版、2014年

(本稿は、『企業価値向上のための経営指標大全』から一部を抜粋・編集したものです