起業家と投資家の経験をもつ書籍『ファイナンス思考』の著者・朝倉祐介さんが、ビジネスのトップ層から現場に至るまで、実績を挙げた多士済々をゲストにお迎えするインタビューPodcast「朝倉祐介の経営トーク」。その初回ゲストに、ソースネクスト代表取締役会長兼CEOの松田憲幸さんをお迎えし、同社の戦略商品であるAI通訳機「ポケトーク」の現況や、同事業をスピンアウトする狙い、ソースネクストの社長交代の背景などについて聞いていきました。そのダイジェストをお送りします(2022年3月3日収録)。

朝倉祐介(以下、朝倉) ソースネクストは、AI通訳機「ポケトーク」の事業を2022年2月にスピンアウトして分社化されました。その後、2月14日に第三者割当増資で外部資金も入れられた状況です。「ポケトーク」はさまざまな現場に浸透し、ソースネクストの代表的な製品になりましたね。なぜこのタイミングで分社化したのでしょうか。

今年2月がAI通訳機「ポケトーク」事業を分社化する最適のタイミングだった理由とは?松田憲幸(まつだ・のりゆき)
ソースネクスト株式会社代表取締役会長兼CEO
1965年兵庫県生まれ。大阪府立大学工学部数理工学科を卒業し、同年日本IBMに入社。1996年8月、ソースネクスト株式会社を創業し、2008年に東証一部上場。業界常識を打破した更新料0円のウイルス対策ソフト「ウイルスセキュリティZERO」をはじめ、累計5000万本以上のソフトウェアを販売。2017年12月には通訳機「POCKETALK(ポケトーク)」を発売し、IoT事業にも参入。現在に至る。(野中麻実子撮影)

松田憲幸(以下、松田) 私がシリコンバレーに2012年に移住して、今年で12年目です。気が付いたら10年以上が経っていました。シリコンバレーでいろんな会社を見ていて、今回の分社につながるいくつかヒントがありました。

まずグローバルな企業になれるのかどうか、というポイント。シリコンバレーの会社でも、グローバルな可能性が見えたものと見えていないものでは大きな違いがある。ポケトークについては、アメリカの売上がすごく伸びてきたことが一つ大きなきっかけになって、この製品はグローバルに成長できるという手ごたえをつかめました。

一例ですが、Newsweekの表紙でIN GOOD COMPANY50の一つとして取り上げられたんですね。

朝倉 アップルやファイザー、ネットフリックス、ナイキ、スバルなどの中に並んでる。すごいですね。

今年2月がAI通訳機「ポケトーク」事業を分社化する最適のタイミングだった理由とは?朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ)
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。2017年、シニフィアン株式会社を設立し現任。

松田 Newsweekが「ポケトーク」のことを製品名でなく社名だと、いい意味で勘違いしてくれたんだと思うんです。

もう一つはシリコンバレーに限らないことでしょうけれども、どの会社も「会社名=製品名」です。大きくなるとMeta Platforms(旧Facebook)だとかAlphabet(旧Google)だとか変わる場合もありますが、おおよそ製品名と社名が一致している。両者が異なると、ブランドをつくるうえでもコストもかかるし、お客さんの認知もぶれてしまいます。なので我々の場合も、「会社名はソースネクスト、製品名がポケトーク」という状況は不利だなと思っていました。

あとは、シリコンバレーでも伸びていて評価されている会社は、リカーリング・レベニュー(継続収益)がある。売上といわずにARR(Annual Recurring Revenue:サブスクなど毎年決まって発生する収益)というのが普通です。「ポケトーク字幕」という製品でリカーリング・レベニューが稼げる目途がたったのも、大きな転機になりました。月額いくらとお支払いいただいて、ポケトークのハードがなくてもZoomやTEAMSで使える製品です。

もう一つ最後のヒントといえるのは、ベンチャーキャピタル(VC)のいくつかに、「(ポケトーク事業が)別会社だったら投資できるんですけど」と言われたことです。こういったことが重なって、ポケトークは分社化したほうがいいんじゃないかということになりました。

朝倉 いま紹介いただいた「ポケトーク字幕」も最近出た製品ですよね。

松田 有料化は4月からですけど、1月からトライアル版を使える状態です。むちゃくちゃ速く訳してくれて精度が高いのが特徴です。

あと(分社した背景として)個人的に、私も会社を25年以上経営してきて、「こうやればもっとよかった」と思うところをもう1回トライしてみたかったというのもありましたね。経営するうえで、どれだけ良い人材を集められるか、どれだけ適切なときにお金を集められるか、という2つが大事だと痛感していて、ポケトークならそれができるなと。スタートアップをゼロからやるとなると、まず製品をつくるのに時間がかかって大変だし、さらにブランドを構築するのも大変なんですが、ポケトークの場合はラッキーなことに少なくともグローバルで使える製品があって、ブランドも日本では圧倒的なシェア95%を取って確立しています。自虐的に言えば、ソースネクストよりポケトークのほうが有名になっちゃったぐらい。スタートアップに必要な2つのコンポーネントがそろっていて、これは(分社化のタイミングとして)いいんじゃないかなというのがありました。

続きはPodcastで! 松田会長が「訪日人気はいま一位のフランスも抜く可能性がある!」という理由も語っています。