「本質的な誠実さ」で人を動かす
ーー加藤さんはマッキンゼー時代から製造業の現場を回ることを大切にされています。現場の方とはどうやって関係を築いたのですか?
加藤:私が大事にしてるところは、まさに前回お話した「至誠」です。営業トークではなく、本質的に大切なことをちゃんと言うようにしています。
これは全員に好かれるやり方ではありませんが、刺さる人には非常に刺さるんですよね。
たとえば、「駆け引きをしない」ことをすごく大事にしています。取引先との駆け引きの集合体が、バリューチェーンが長い製造業全体ですごいバッファを生み出しているんです。ある人が「100円で4週間以内」で物を欲しい時、調達担当の人には「90円で3週間以内で用意してくれ」と言うんですよね。それが無理だった時に、最悪でも「100円で4週間以内」で手に入るように。
同じように、調達担当の人は次の加工会社の人に「80円で2週間以内」と要求するのです。それが続いて無理が生じ、結果的に「100円で4週間」の納期も守られない。
下請け構造になるほどバッファが溜まります。
それを「テクノロジーで解決する方法」と「マインド的に解決する方法」の両方を考えようとキャディは言っています。
「駆け引きをしない」というのは「100円で4週間だったら、最初から100円で4週間でやる」と言うことです。
そもそも、できなかったらできないと言いますし、「どうやったらできるかを考える」ことには絶対にコミットするので、駆け引きはやめましょうと言っています。
駆け引きはお互いにとって時間の無駄にしかなりません。
これは最初の面談で言うようにしています。この駆け引きのバッファが、ポテンシャル解放を妨げている部分が大きいからです。それで納得できなかったら、うちは取引しないとまで言っています。
でも、意外とみんな心根では「この駆け引き無駄だよな」と思っているので、ちゃんと響いてくれたりするんですよ。
ある意味青臭い話ではあるんですけれど、私はすごく大事にしています。
いきなり自分の過去はさらけ出せないけれど、本当に大事にしていることを真正面から言うと、伝わりますよね。
とはいえ、バッファに慣れている人も世の中にはたくさんいます。お互いに信頼しないと、囚人のジレンマで「正直者がバカを見る」世界になるのが難しいところです。
もしそのようなことをやるんだったら、うちは付き合いませんと最初に宣言するのが重要で、もし裏切られたら本当に付き合わないことも大事です。実際にお取引をお断りしたこともあります。
すごく意志が求められますし、簡単なことではありません。短期的には絶対に変わらないので、長期視点でしかできないと思います。
平尾:加藤さんの至誠のお話は、すごくいいですよね。とても感銘を受けました。
今日はありがとうございました。
加藤:ありがとうございました。