アスリートを襲う障害「イップス」
スポーツ心理学で克服できるか

 イップスとは運動障害の一種で、何らかの原因によって今まではできていた動作が突然できなくなる状態を指す。そして、イップスは誰にでも起こりうる。野球、ゴルフ、サッカーなど多種多様なスポーツで、選手がイップスを発症しているのが現実だ。

 イップスの症状の現れ方は個人差が大きい。力が入りすぎて筋肉が硬化する、手や足を思い通りに動かせなくなるなど、さまざまな症状が報告されている。

 イップスは疾患ではなく、中枢神経系障害の職業性ジストニアに分類されることもある。治療では、筋肉の硬化を和らげるために筋弛緩薬が処方されるケースも見られる。

 ただし、イップスについてはまだまだ研究の余地が大きい。イップスの原因は明確には解明されておらず、治療法も確立されていないのだ。だからこそ、さまざまな領域で進められている研究に注目が集まる。

 2021年には広島大学の研究チームが、イップスには特徴的な脳活動が見られることを報告。この研究によって、科学的知見に基づくイップス克服法が確立されることが期待されている。(参考:広島大学 https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/64744

 イップスはまた、心理的負担が原因だとも考えられている。たとえばミスやアクシデントを経験したことによってプレーに恐怖心を抱いてしまった結果、イップスを発症するケースだ。

 心の不調に対しては、抗不安薬が処方されることもある。イップスの治療では薬物療法のほか、認知行動療法やカウンセリングなどメンタルヘルスケアのアプローチも取られている。

 原因や治療法に謎の多いイップスだが、メンタルヘルスケアがイップスの予防や克服を支える可能性は大きいはず。比較的新しい研究領域であるスポーツ心理学が、アスリートのメンタルヘルスケアに大きな成果をもたらすことを期待したい。

【参考書籍】

『エディー・ジョーンズ わが人生とラグビー』(エディー・ジョーンズ著、ダイヤモンド社)