一方、一連の出来事によって日露関係は冷戦後最悪のレベルにまで悪化しているが、岸田政権はそれも覚悟の上でロシアに対する厳しい姿勢を示し、米国と足並みをそろえる形で経済制裁を発動している。
当然ながらロシアもそれに対抗する構えで、日本がロシア向け高級品目の輸出禁止、ロシア人外交官の国外追放に打って出たことに対して、ロシア側も日本人外交官たちを国外追放するなどして応酬している。
だが、侵攻以降、欧米や日本とロシアの関係が悪化するものの、米国にとっての最優先課題が中国との戦略的競争であることは変わらない。就任当初から、バイデン大統領は中国を唯一の競争相手と位置付け、新疆ウイグルでの人権問題を表に出して中国への経済制裁を強化し、日米豪印によるクアッド(QUAD)、米英豪によるオーカス(AUKUS)など、多国間枠組みを使って中国に対抗する姿勢を鮮明にしている。
5月下旬、バイデン大統領が就任後初めて日韓を歴訪した。ちょうど韓国では日米などとの協調を重視する尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が誕生したことで、両者による米韓首脳会談は久々に重い空気の流れない会談となった。
日本での日米首脳会談では台湾有事やその周辺海域での現状変更などを巡って中国への懸念が示され、その翌日に開催された日英豪印によるクアッド首脳会合では、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、今後5年間で同地域のインフラ整備に日本円で約6兆3800億円の支援や投資を実施していく方針が発表された。
中国にとって、米韓首脳会談や日米首脳会談、そしてクアッドという一連の出来事は自らに対立する動きとなり、クアッドは中国を名指ししなかったものの、中国はこれを習政権が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するものと捉えているだろう。
また、中国は韓国の出方を気にしていると思われる。米国や日本、オーストラリアやインドの出方は予測していたはずだが、韓国で日米との関係を重視する尹政権が誕生したことで、今後、同政権が経済や安全保障でどのような姿勢で中国に臨んでくるか、キーポイントはそこかもしれない。