われわれの多くは、自動車の運転免許をきっかけに交通法規や自動車の仕組みを知っている。しかし、残念ながら多くの大人が正しい金融知識を持っていない。大人に金融知識を広めるには、運転免許的な仕組みの提供が効果的だろう。

 また、資産形成そのものの普及のためには、おびただしい数のアドバイザーやアシスタントが必要になる。そして、正しい金融知識の普及のためには大人同士が教え合う仕組みが有効だ。「正しい内容」を定義し教育することとともにそこにビジネス上のインセンティブを与えるといい。

 なおMAの資格は、FPの資格とは切り離して距離を置いたものとして運営するべきだ。FPの資格の運営者は、金融機関や保険会社とのビジネス関係が深く、あるべきMA業とは深刻な利益相反を抱えているからだ。MA資格に必要な知識は、金融庁が責任を持って定義し提供すべきだろう。金融業界関係者やビジネスを知らない学者などによる「有識者会議」は必要ない。

 一方、もちろん独立したFPがMAを取ってMA業を営むことには何の問題もない。

「限定された資産運用アドバイス」の
範囲をどこに定めるべきか

 MA制度ができたとして、MAが業として行っていい金融資産運用アドバイスの範囲をどのように定めるべきだろうか。

 いずれにしても、アドバイスの対象にしていい運用商品は金融庁がリストアップして指定することになるだろう。

 例えば、リスク資産として対象にできる商品範囲の可能性を挙げてみよう。

(1)アドバイスできるリスク資産は実質一つ。例えば、公的年金と同等の資産配分(今なら国内外の株・債券に投資する「4資産均等」)を持つバランスファンド、または全世界株式のインデックスファンドなどが考えられる。筆者は全世界株式のインデックスファンドを推したいが、日本株に投資させたい向きが多い政治的な力によって、前者に決まる方がありそうな展開だ。

(2)「4資産均等」「全世界株式」「外国株式」「国内株式」、など大きく異ならない選択肢が実質数個あって、それぞれに該当する個別商品を金融庁がリストアップする。低廉な手数料のインデックスファンドが中心で、つみたてNISAの適格商品よりも範囲の狭いものとなる。なお、対面営業の証券会社では低廉な手数料の商品を窓口で扱っていない可能性があるので、適格とされる商品のリストにはETFも入れておきたい。

(3)つみたてNISAの適格商品はアドバイスしていいとする。これに、上記の理由で適当なETFを加える程度の商品範囲はどうか。このくらいまで範囲を広げるとアドバイスにかなりの自由度が生まれるが、MA資格の当面の限界だろう。なお、つみたてNISAの適格商品の基準は適宜見直して入れ替えていい。また、利用者には5年に一度程度の投資対象商品のスイッチングを認めて、商品間の競争を促すといいのではないだろうか。

 筆者の個人的な意見としては、MA自体は知識として、例えば手数料の重要性等を教育されているので、最も選択肢が多い(3)でいいのではないかと思うが、現実的には(1)に近いものが無難なのかもしれない。初級資格と上級資格に分けてアドバイス可能な範囲に差を設けるのも一案だろう。