2040年にTeach For Allのビションを達成し組織を解散する
中原健聡(以下、中原):私はおふたりと違い、事業を起こしたわけではないので、起業家ではありません。2018年にTeach For Japanは経営難に陥っておりました。その難しい局面で代表に手を挙げる人がいない状況でしたが、僕個人のビジョンと、組織の方向性には重なる点が多く、このまま組織が解散することは社会的に不利益になると感じ、私が手を挙げました。0から1を起こす起業家とは違いますが、再興するプロセスはそこと共通する点はあると思います。また、限られた人生と考えた時に、あるものを再設計することは、0からつくるよりも効率的だと考えたのです。
我々がやりたいのは、社会課題の解決のために社会構造を変えることです。もし、事業収益を上げていくことに時間を割くのであれば、NPOである必要はないと思います。株式会社でも実現可能だからです。
僕がNPOであるTeach For Japanを選択した理由は、二つあります。ひとつは、NPOだからこそ、時間を決めてフルコミットできることです。現代の多くの事業会社は、自分達の会社が持続的に大きくなる事を考え事業を企画・運営します。NPOは社会課題の解決を目指し、事業を企画・運営します。もし、NPOが自分達が持続的に存在することを目指すと、それは社会課題があり続けることを前提とすることにもなります。自分達の組織がスケールする膨張を目指すのではなく、社会課題の解決を実現する成長を目指し、我々が持っていないリソースを持っている多種多様なプレイヤーを、誰かの損得ではなく、共通のビジョンのもとに、行動変容を促すことができるのはNPOの強みだと思います。
そして、僕がTeach For Japanを選んだもう一つの理由は、2040年にTeach For Allを解散させることに挑戦できるからです。Japanだけではなく、世界中のネットワークをすべて解散させることです。
Teach For Japan代表理事
2011年に大学卒業後スペインへ渡り、サッカー選手として2014年までプレー。サッカー選手時代に「何のためにサッカー選手をしているのか」という問いを持ちながら、キャリア教育で日本の中・高・大学生へ講演をしたことを機に、「生きたいように生き続ける人であふれる社会の実現」をVisionに教育分野での活動開始。帰国後は大学で事務職員をしながら日本の学校制度について調べ、現場に出ることを決意し、Teach For Japanのフェローシップ・プログラム3期生として公立小学校で勤務。フェローシップ・プログラム修了後は、札幌新陽高校に校長の右腕として着任し、学校経営・開発に携わり、2018年に新陽高校で「偏差値ではなく経験値、最終学歴ではなく最新学習歴の更新」を軸にしたProject Based Learningによるライフスキルの開発に特化した探究コースを創設。2019年よりTeach For JapanのCEOに就任し、問題が複雑で答えがわからず、必要な変化を実現するためのリソースや権限を単独で持っているプレーヤーが存在しない公教育の改革、教育格差の解消に向けて、コレクティブ・インパクトによる社会課題の解決に挑戦している。2021年より経済産業省産業構造審議会臨時委員に就任し、教育イノベーション小委員会メンバーも務める。
渡邊:ええーっ。
中原:解散するということは、「我々が存在する理由である社会課題が存在しない」ということです。
「In 2040, communities in every part of the world are enabling all of their children to have the education, support, and opportunity to shape a better future for themselves and all of us. These communities are inspiring and informing a worldwide movement to achieve this everywhere.」
これが、Teach For Allの2040ビジョンなんです。それを掲げたのは、創設者のウェンディ・コップをはじめとするTeach For Allです。言ったからにはやることにフルコミットしようじゃないか。グローバル組織として言っているのだから、必ず2040年にTeach For Allが存在する必要のない世界を実現させることが私のミッションなのです。
渡邊:ぜひ、世界を変えてください。