特集『業績 再編 給与 5年後の業界地図』(全16回)の#12では、ロシュとの提携で時価総額首位に躍り出た中外製薬、複数の新薬が発売される第一三共、さらに開発重視にかじを切った元王者の武田薬品工業など主要プレーヤーの5年後を予測。今や医薬品セクターは薬価の抑制圧力や製品寿命の短縮化により、「画期的な新薬の開発力」で業績も株価も大きく差がつく「ハイリスク・ハイリターン」な業界に変貌している。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
中外製薬が武田を抜いて時価総額首位
創薬力で業績も株価も差がつく時代に
「販売力から創薬力へ」――。
世界的に薬価の抑制圧力が強まっている。特に少子高齢化が進み医療財政が厳しい日本では、古い薬や差別化できていない薬に対して、薬剤の価格低下圧力が強い。
政府も「革新的な新薬」の開発を促す。昨年の薬価制度改革により「革新性や有用性」「世界に先駆けた開発」などが従来よりも評価されるようになった。
言い換えると、高齢者が増えて薬の使用量が増加しても、簡単にはもうかりにくい状況になっている。一方で創薬の難易度も上昇している。その結果、何が起きているのか。
「従来は開発した薬を長く育てる方がよく、研究開発よりも販売力が重要だった。ところが最近は製品のライフサイクルが短くなり、次から次へと画期的な新薬を作る必要がある。創薬力で業績も株価も差がつく環境になっている。大事なのは、どれだけ有望な開発品を持っているかである」(大和証券の橋口和明シニアアナリスト)
以前は、最初に開発された薬の完成度が低く、二番煎じの改良薬が世界で売れる余地があった。だか、近年は開発される薬の完成度が上昇している。
先発薬は安全確認も進んでおり、2番手の薬を使う理由がなくなっている。その意味でも、大きな収益を上げるには「画期的な新薬」の重要性が上がっているのだ。
実際に株価にも新薬開発力の差が反映されている(下図参照)。医薬品セクターでは長期間にわたり武田薬品工業が時価総額のトップに君臨していたが、2020年2月に中外製薬が逆転。第一三共も一時は武田薬品を時価総額で上回るなど、勢力図が大きく変化してきている。
次ページで紹介するように医薬品セクター大手の平均年収は1100万円と高水準で横並びである。しかし、今後は年収格差も開く可能性がある。
では、ここから5年、10年、ますます激化するグローバル競争を勝ち抜き、伸びる会社はどこか。取材で浮かび上がったキーワードは二つ。
次ぺージから二つのキーワードを解説しながら、主要プレーヤーの5年後に生まれる明暗を予測していく。