これまでも各カンパニー長が独立して事業責任を負ってきたため、「持株会社制に移行しても結局カンパニー制と変わらないのではないか」という反論もあるかもしれない。しかし、商法上独立した事業会社の社長と、バーチャルな企業内組織のトップでは、その責任や重圧はやはり異なるのではないか。

 松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか。今日のパナソニックが置かれた状況は、松下幸之助の時代とは大きく異なるが、幸之助イズムを現代的に解釈すれば、パナソニックの持株会社制移行はわりと素直に受け入れられる気がする。

カンパニーと独立事業会社に
見える「本気度」の差とは

 各ビジネスユニットにおけるトップの本気度という話に戻れば、筆者も前職でカンパニー制が敷かれていた頃のソニーに在職していたが、「どうせ数年すればカンパニーの枠組みは変わる」「今は自分のカンパニーの業績が悪くても、ソニー自体が潰れるということはないだろう」といった、実際の企業の社長のような本気度が見られないカンパニーのトップもいたように思える。

 事業ユニットの経営に対する本気度は、バーチャルなカンパニーと実際の独立した事業会社では異なるのではないだろうか。現在、ソニーの社長を務める吉田憲一郎氏も副社長でCSOの十時裕樹氏も、現在のSo-net運営会社やソニー銀行など、ソニーグループの中で本社の一部門ではなく、独立した事業会社の経営を担って、平井一夫前社長時代のソニーの経営を支えてきた。平井氏自身も、ミュージックからゲームまで多様な独立事業のトップを務めた経歴を持つ。

 So-netもソニー銀行も、ステークホルダーから「本業ではない」と言われ続けてきた事業会社であり、それらをいかに持続させ発展させるかは、経営者としての本気度が問われただろう。ある意味、本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない。