変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

なぜ、システムを刷新する度にユーザエクスペリエンス(UX)が低下するのか?Photo: Adobe Stock

とある回転ずしチェーンで経験した残念な事例

 最近日本に帰国した際に、とある回転ずしチェーンでテイクアウトのサービスを利用しました。私は店舗で持ち帰り商品を注文し、しばらく後に再度店舗へ受け取りに行くことにしました。

 私は、注文をするために店舗の受付カウンターに進みました。順番を待って商品の注文をしようとしたところ、それには別カウンターに設置してあるタブレットを使用する必要があると告げられました。

 そして、タブレットに個人情報と注文する商品を入力したところ、再度受付カウンターに行って、伝票を受け取るようにとの指示が画面に表示されました。指示通り先ほどの受付カウンターに戻ったところ、システムから自動で伝票が発行されているわけではなく、店員に名前を告げて伝票を発行してもらう必要がありました。

 その後の商品の受け取りはスムーズでしたし、店員が親切にサポートをしてくれたので、顧客満足度に影響するほどの出来事ではありませんでした。

 しかし、本来ユーザエクスペリエンス(UX)を改善するために導入しているシステムが、逆にUXを損なっている現場を目の当たりにし、非常に残念に感じたことは否めません。

相手に伝わることを最優先する

 本連載のテーマである『アジャイル仕事術』の基になっているアジャイル開発手法では、顧客企業から言われた仕様を設計書には落とさず、いきなり開発することに特徴があります。

 これは非常に画期的な開発手法で、理解が間違っていた場合には、すぐに顧客企業から指摘が入ります。何よりも、設計書を作成するための工数が大幅に削減されるというメリットがあります。

 一方で私は、必要に応じて、設計書を作成してから開発に着手するようにもしていました。

 例えば、銀行のシステムは銀行ごとに異なるコード体系を使用していたため、取引相手の銀行ごとに仕様を検討する必要がありました。これを一つずつ動く画面で確認するのは大変ですが、設計書に整理された形であれば、顧客企業が一目で確認できます。

 冒頭の回転ずしチェーンで、どのようにシステム開発が進められたのかは分かりませんが、請け負ったシステム開発会社は、顧客企業から言われた仕様をシステムに落とし込むことだけに終始してしまったのではないでしょうか。

 顧客企業がユーザ視点でシステムを使ってみることにより、どういうUX(ユーザーエクスペリエンス)が得られるのか? UX改善という視点が欠けていたと言わざるを得ません。

顧客が最終製品に求める価値は何か?

 相手に伝わる形式というのは、相手の期待値にも大いにかかわることなので、別の事例を使ってもう少しだけ説明しましょう。

 ブランド価値には、機能的価値、情緒的価値、自己表現的価値の3つがあります。もし皆さんが高級自動車メーカーに勤めていて、新車の開発を担当しているとします。顧客ヒアリングからも、顧客が自社のデザインを中心とした情緒的価値を求めていることが分かったとします。

 逆に、顧客は乗り心地や燃費といった機能的価値には、ほとんど期待していません。

 このような場合に、新車に対する顧客からのフィードバックをどのように求めればいいでしょうか?

 車だからと動く車を開発して試乗してもらうよりも、模型を制作してそれを見てもらいフィードバックをもらったほうが、より低コストかつ時間も節約できるのではないでしょうか。

 顧客が最終製品に求める価値が何なのかを見極めて、中間アウトプットの形式を柔軟に考えることで、無駄なコストや時間を節約し、俊敏力を高めることができます

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。