いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた「金融界の鬼才」伊藤潤一氏。地上波をはじめメディアでも注目を集める人物だ。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。

日本人が「投資してもらったお金は返さなくていい」と勘違いしてしまう理由Photo: Adobe Stock

「自己資本」という言葉がおかしいのでは

若い起業家の中には、「金融機関から融資を受ければ返済しなければならないけれど、出資してもらったお金は返さなくていい」と思いこんでいる人もいます。

確かに、起業してからしばらくは商品・サービスの開発や販売網の整備などで赤字が続くのが一般的であり、その間は配当も出せません。しかし、利益を出せるようになったら株主にきちんと還元する必要があります。当期純利益は本来、株主のものなのですから。

そもそも「資本」は英語で言うと「Shareholders' equity」です。日本語にすると「株主資本」となりますが、日本ではこれを「自己資本」と呼んでしまうケースが少なくありません。自己資本を英語にし直すと「Self equity(自分のequity)」になってしまいます。資本は自分のものではありませんから、この言葉がおかしいのです。

株主資本は株主のお金であって、利益はすべて株主に返さなくてはなりません。それを「自分のもの」と勘違いしているとすれば、経営者のequityに対するリテラシーは目も当てられないほど低いと言わざるを得ません。

近年は企業に対して「ESG(環境、社会、ガバナンス)」が求められるようになっています。見方を変えると、本当にガバナンス革命が起こり、株主のものである利益がきちんと株主に還元されるようになるのであれば、株式投資をする意味が増していくとも考えられそうです。

せっかくなのでもう1つ、最近私が考えていることをお伝えします。

ある企業の損益計算書の販管費の内訳を見ると、「パート費」「給料手当」など人件費が多くを占めています。一方、バランスシートには「人」に紐づくものはほとんど記載されていません。つまり財務諸表上は、人材というのは「コスト」であり、資産とはみなされないのです。

経営の神様とも呼ばれた松下幸之助が「企業は人なり」と言ったように、本来、人材は企業にとって重要な資産であるはずです。優秀な人材を多く抱える企業があったとき、それを資産に計上できないのはおかしいのではないかと感じます。

この問題が放置されているかぎり、人材は企業経営において永遠にコストでしかなく、その会社の人材の良し悪しを客観的に判断するのは非常に難しいでしょう。

このように、バランスシートや損益計算書を読むときも、ただ構造を理解するだけでなく、本質を理解してどこまで発想を拡散できるかが重要です。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)