ストック型の集合的知識

 そのようなWikipediaの集合知としての特徴はストック性である。一度作成された記事は、誤りのない限りほとんど書き換えられる必要はなく、Wikipediaが存在する間は、利用できる知識として活用されるだろう。また、長い期間かけてさまざまなユーザに確認され、誤りが訂正された記事はより正確性を高める。

 そのような性質をもつWikipediaは、インターネット上の良質なコンテンツとして今後も活用しつづけられるだろう。これに類似の集合知としては、オープンソースのソフトウェアの事例を挙げることができる。多くの人に使われ、バグを修正したソフトウェアは安定した品質が確保される。

フロー型の集合的知性

 予測市場がそのようなストック型の知識ではないことは明確である。むしろ、世の中の動きにあわせてその価値が急激に増大したり、失われたりするという点で、フロー性の強い集合知である。同じようなフロー性のある集合知としては、たとえばfacebookの「いいね!」ボタンやTwitterのRT(リツイート)がある。

 これらは、多くの人が新しいブログの記事やニュースなどに対して、何らかの、(多くの場合好意的な)反応を示す時に用いられる操作である。その集計値によって、当該ツイートやニュースの重要性をある程度推し量ることができる。また、facebookに表示される記事はその数値により選択されるが、その重要性も時間が経過し、記事の新鮮味が低下するにつれて、その操作の価値も低下してしまうという性質から逃れられない。

 同様に予測市場も、基本的にフロー性のある集合知の仕組みであり、時流に応じた、予測対象となるテーマに関する情報を抽出するのが特徴である。その点で、集合知の事例としてよく知られるWikipediaとはまったく異なる構造である。