投票による意見集約

 集合知が効果的に作用するためには幾つかの条件があるが、多様な意見をうまく集約する仕組みを持つことがその一つである。そして、その仕組みの中でよく知られている、というより意見を数量化する事実上唯一の手法とされるのが投票である。先に述べた「いいね!」も、一つの記事に一人1回しか付けることができないので、簡易な投票であるとみなすこともできる。

 また、投票といえば選挙であるが、その選挙のゆくえを占うために、今日様々な世論調査が行われている。この世論調査は、回答者を限定したある種の投票とみなすこともできる。つまり、全数を対象に厳格に意思を確認する手続きだと投票になるが、それよりコストも簡便な方式として世論調査が存在すると考えることができるのだ。

 このように、何らかの形で参加者の投票にもとづいて意見が集約される仕組みは、小学校の学級委員選挙から、ローマ法王の選出プロセスまで、今日さまざまな場面で用いられている。

 しかし、投票という仕組み、特にわが国で一般的な単記投票と呼ばれる方式――幾つかの候補の中から投票したいもの一つを選んで投票する方式――は、しばしばパラドックス(矛盾)を引き起こすことが知られている。しかし、簡単な手続きで民意を代表することができると信じられているので、広く用いられているのが実情である。

市場による意見集約

 市場も意見集約の仕組みとして活用することができる。一般に市場では、価格や取引数量を用いて財の価値を計量できる。さらに、参加者の参加義務もなく、またいつでも好きな量を売買できるため、投票に比べて参加者の行動の自由は飛躍的に高い。しかし、投票に比べて市場への参加はハードルが高いと考えられている。特に金融商品のような一見複雑で、物理的な実体をともなわない取引をする市場はなおさらである。

 しかし、インターネットの普及により、様々なモノや権利が日常的に売買されるようになってきた。昔のソフトウェアは箱に入って販売されていたが、今ではスマートフォンでダウンロードできる。またオークションサイトでの中古売買や、ネット証券での取引なども盛んに行われている。

 これはインターネットが情報流通のコストを極端に低下させたことにともなう現象であり、今後も様々な財が取引されるようになるだろう。その一つとして、予測市場で取り扱われるようなある種の権利――たとえば雨が降ったら保険金を受け取れるような権利――も、今後は流通するようになるかも知れない。