コロナ禍のリモートワークなど生活スタイルの変化により注目されたのが、資産形成に対する関心が高まったこと。特に、20~30代の若い人たちの間で、つみたてNISAの口座開設が急増した。そんな状況の中、つみたてNISA本の決定版ともいえる『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)が3月16日に発売。本連載では、つみたてNISAを利用して長期投資や資産形成をしてみたいという人に向けて、失敗しないつみたてNISAの賢い選び方・買い方について、同書から抜粋して公開する。「つみたてNISAってなに?」という投資ビギナーの人でも大丈夫。基本的なところからわかりやすくお伝えしていくので、ぜひ、お付き合いください。

持っているかぎりずっと支払い続ける「運用管理費用」Photo: Adobe Stock

運用管理費用は、投信運用会社にとっての「食い扶持」

 次は「運用管理費用」について説明します。

 運用管理費用というのは少し前まで「信託報酬」とよばれていたものです。これは、投資信託を運用する投信運用会社、投資信託の資産を管理する受託銀行、そして販売金融機関の3社が受け取ることのできる報酬です(このうち販売金融機関が受け取る分は、前述した「代行手数料」と呼ばれるものです)。

 運用管理費用は、まさに投信運用会社にとっての「食い扶持」です。インデックス運用とアクティブ運用で大きく水準は異なりますが、年率はだいたい0.1~3%程度で、それが投資信託の信託財産から日々、差し引かれていきます。

 信託財産というのは、皆さんが保有している投資信託に組み入れられている株式や債券などの組入資産を指しています。

 たとえば、運用管理費用率が年1%だとしましょう。信託財産の現在額がいくらなのかを示すのが「純資産残高」ですが、仮にその額が年間平均残高で100億円だとしたら、1年で1億円、500億円なら5億円の運用管理費用が、ファンドの運用・管理にかかわっている関係各社に配分されることになります。

運用管理費用の高さと成績の良さは、全く関係がない

 運用管理費用率は、投資信託によってさまざまです。では、そのコストが高いほど成績がいいのか、という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

「より高いコストを払っているのだから、より良いサービスを受けられて当然」と思うのは、自然だと思います。

 でも、それは投資信託には全く通用しません。

 投資信託としての一番のサービスは、やはりしっかりした運用成績を投資家に提供することだと思います。

 しかし、運用管理費用率の高いファンドが、常に高い運用実績を上げることができるという相関関係は、どこにもありません。

 なぜなら、投資信託の運用先が、株式市場や債券市場などのマーケットだからです。マーケットの行方が将来、どうなるのかということを、事前に把握できるファンドマネジャーなど、絶対に存在しません。未来は誰にも予測できないからです。

 高額報酬を支払って、世界でも有名な極めて優秀な能力を持った運用者を雇ったり、非常に高価な運用システムを導入したりしても、それが高い運用成績を保証するものではありません。

 どんなに優秀なファンドマネジャーでも、常にトップクラスの運用成績を維持できる人はいないものです。

運用管理費用率の高い投資信託が、必ず優秀であるとはいえない

 過去に、ノーベル経済学賞を受賞した人たちが中心となって構築した運用システムを持つヘッジファンドが、通貨危機の影響で破綻したことがありました。そんな実績があっても常に勝てるものではないということが、想像できると思います。

 優れた運用者、優れた運用システムに高額な資金をつぎ込めば必ず勝てる、という保証があるならば、そのコスト負担のために運用管理費用率を高く設定した投資信託があったとしても、それは容認できます。

 でも、現実は、いくらそのようなものに高いコストを払ったとしても、必ず優秀な成績を出せるとは限りません。つまり、運用管理費用率の高い投資信託が、必ず優秀であるとはいえないのです。

 ただ、そうなると、「高い運用管理費用は何の意味があるのか?」という疑問が浮かんでくるでしょう。これについては、次回に説明いたします。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信代表取締役会長CEO
一般社団法人投資信託協会副会長、公益財団法人セゾン文化財団理事
1987年明治大学商学部卒業、クレディセゾン入社。2006年セゾン投信を設立。2020年6月より現職。つみたてで、コツコツと資産をふやす長期投資を提言。国際分散型投資信託2本を15年以上運用し、個人の長期資産形成を支えている。客観的な定量評価を行う「R&Iファンド大賞」最優秀ファンド賞を9年連続受賞。口座開設数16万人、預かり資産5000億円を突破。
主な著書に『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』『投資信託はこうして買いなさい』(以上、ダイヤモンド社)他多数。