“良識派”歯科医4人が「これだけは言っておきたい」と訴える覆面座談会。特集『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#3では、歯は抜かない方がいい、残しておいた方が絶対いいという“歯は残す”信仰が、患者たちに不幸をもたらすと言い切る。年を重ねて高齢になったとき、無理やり残した歯はどんな災いをもたらすのか。(聞き手/ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)
「高齢者にとって怖いのは
歯周病よりも虫歯なんです」
S:SIN先生 地方中核都市開業医
H:Hey先生 首都圏にて矯正専門医
T:taka先生 都内複数箇所で勤務医
sp:spee先生 地方中核都市開業医(座談会をコーディネート)
――歯を失う原因となる病気といえば、歯周病か虫歯(う蝕)のいずれかですね。中でも歯周病は30代以上の3人に2人がかかっている「国民病」とされています。
S 歯周病は、重度から軽度まですごく幅がある病気なんです。軽度も入れるとそうなります。
「キスでうつる病気」といわれるように、歯周病原菌は唾液などを通して細菌感染し、プラーク(歯垢)の中で増殖し、歯茎の炎症を引き起こしていきます。昔は歯槽膿漏と呼ばれていました。
歯周病を引き起こす細菌の量には個人差があって、90歳を過ぎても全く問題なく、歯がほぼそろっている人もいる。歯周病はすごく難しい病気なのです。
ただし、高齢者にとって怖いのは歯周病よりも、虫歯の方ですね。
――怖いのは虫歯ですか?
S 「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」(80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動、2016年調査で達成者は50%を超えた)がありますが、80歳を超えて歯がかなり残っているような人って、歯周病の心配はほぼない。現に、歯がグラグラせず残っているわけですから。
一方で、高齢になると虫歯がすごく増えてくる。虫歯を防ぐ唾液の量が減ってくることも大きいでしょう。年を取っても歯が残っているというのは、結構怖いことでもあるのです。
sp 確かに、高齢者施設などで虫歯が大量発生しているケースを結構、聞きます。
歯周病などで歯茎が下がってくると、歯の根っこの部分が露出してくる。この部分はエナメル質がなくて、かなり弱い。そこに、認知症や手の機能の衰えによって歯をうまく磨けないような状況が加わると、「根面う蝕」といわれる虫歯に、すごくなりやすいんですよ。
S 年を取れば取るほど、残っている歯をコントロールするのが難しくなってくる。総入れ歯の方がむしろコントロールしやすいと唱える先生もいます。
T 虫歯も歯周病も細菌感染である一方で、生活習慣が関わる疾患だとみる流れになってきました。
S 生活習慣も大きいですよね。うちに通い続けてくれていた人が、年を取ってから急に虫歯が増えてきた。「どうしたんですか」と聞くと……。